恥じらう指先に愛



「デート、しようか」


にこ、という擬音がつきそうなくらいに爽やかな笑顔でそう言われたときは、さすがに「…はい?」と聞き返してしまったのである。しかしやはり聞き間違いではないらしく、先程と同じ返答が来て、タクトはこれ以上なく動揺した。
性の悪いことは、スガタのそういう台詞は、非常に様になるのである。容姿端麗な顔に見つめられながら甘い声でそんなことを言われてしまうと、世の中の女子は皆卒倒してしまうだろう。事実その言葉ほ羅列の意味を正確に理解したタクトはその赤い髪と同化してしまうくらいに頬を熱くさせたのである。
だが二人は男同士という弊害と、タクトについてはそのせいで生じる後ろめたさが存在する。二人きりで出かけるときも、普通なら感じない気恥ずかしさを感じてしまって、出来るだけスガタの家に留まっているのである。


「気恥ずかしさなんて感じてるのは、タクトだけだと思うけど?」
「…!な、なんで」


声、出てるよ。そう事もなげに言われてしまうと、なんだかいたたまれなくなってしまう。俯いて顔を隠そうとすると、それを許さないかのように顎を掬い取られる。タクトの僅かに水を張った瞳が、スガタのそれとかち合った。
僅かに迷いを見せる恋人が愛しくも、いつまでもスガタの家に終わる生活ではこちらとしては楽しくない。少しだけ妥協の色を見せるタクトの意志をこちらに傾けることなど、スガタにとっては造作もないことだった。


「…僕は、寧ろ周りに見せ付けてやって構わないんだけどな」
「!」
「タクトが、いいんだ」


駄目かい?そう低く囁く。目を軽く見開いたタクトから消え入りそうな声で了承の意が伝えられるまで、あと5秒。









さて所変わって、二人は街に繰り出したわけだが。
この島には二人が行ったことのない場所など存在していなくて、だからといって特別行きたい場所がある訳でもなかった。しかし意味もなく街中を回っていても、二人の胸中は普段とは違うものがある。特にタクトについては、他愛もない話をしながらも、その声音には羞恥と緊張の色を帯びているのが分かる。
その普段の余裕そうな態度とのギャップに、くすりと笑いながら、スガタは所在なげに空を掻いているタクトの左手に気づく。指先で少し触れると、びく、と震える左手。なぞるように手と手を絡ませる。恋人が逃げないように。その体温を出来るだけ分かち合うように。


「スガ、タ…!」
「いいじゃないか…僕たち、恋人だろ?」


嫌かい。そう囁くと、若干の間をあけて、絡まった指に力が込められる。
嫌な訳、ないだろ。
伏せられた目に、震える声に、スガタは今すぐにでも唇を落としたくなった。







その後は極普通に街中を回り、食事をして。割り切ってしまえば案外羞恥は襲ってこないものである。二人の手はまだ互いに絡まったままだったが、その手越しの体温が心地よくももどかしく、そのくすぐったさに少し笑った。
気が付けば、二人の足は海岸へと向かっていた。スガタとタクトの出会いの場所。満天の星が空を彩り、夜の波を怪しく照らし出していた。浜辺に座り込み、緩やかに首を上げ、星空を音もなく見上げる。波の音だけが二人の心に浸透するように溶け込む。夜風が少し冷たく、どちらともなく身を寄せ合った。


「…スガタ」
「ん?」
「…楽しかった」


遠く地平線を眺めながら、どこか夢見心地な様子でタクトは呟いた。その言葉はなによりもスガタを高揚させたが、未だこちらに向けられない視線に、少しやきもきしてしまう。今日の恥じらうタクトは非常に愛らしいものだったが、やはりその赤く熟れた瞳に自分の姿を映したい欲求が、スガタの中で燻って渦を巻く。
顎を掬い取るようにして無理矢理タクトの視線をこちらに向けさせると、そこには甘さに濡れた赤い瞳。それに吸い寄せられるように、どちらともなく唇を寄せ合った。
最初は戯れるように、しかし徐々に深く。


「…ん、ぁふ、ぅ…」
「…っん」
「…ふぁ…っんんん」


タクトは意外とキスが不得手だった。自分の声に羞恥を煽られながらも、呼吸が上手くできなくて、声が抑えられない。
苦しくてスガタの首に腕を回すと、一拍置いて「いい子」と囁かれる。タクトはその声がどうしようもなく好きだった。
髪を掻き分けてうなじへ侵入する長い指が首筋を撫で上げる度に体が歓喜に打たれる。恥も外聞もなく、二人は互いを求め合った。
唇が名残惜し気に離される。その間には甘い色香が依然として漂う。その僅かな生温さにはにかみながら、存在を確かめ合うように、溶け合うように、その距離を縮める。
恥じらいをかなぐり捨てた指先は、依然として愛情を保ったままで二人をきつく絡ませるのであった。




end.


::::::::::::::
一万打企画、依芽歌さまリク、
「スガタクラブラブデート」でございました!
デートの描写が殆どない…!
ラブラブな雰囲気が出てない…!
こんな駄文ですみません!
お気に召して頂けたでしょうか…?

ともあれ、リクエストありがとうございました!


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -