陽炎に消ゆ ※暗い ※雪燐寄り燐総右 おk?↓↓ その日は厚い雲に覆われていた。 悪魔の大群が一度に祓魔師らの下へ襲い掛かってきたのは、つい先刻のことであった。階級の低い雑魚ばかりだったが、多勢に無勢とはこのことで、祓魔師の少ない日本は、その下級悪魔どもに手を焼いていた。 しえみも、志摩も、勝呂も、子猫丸も、出雲も、シュラも、雪男も。 燐も。 祓魔師を目指す塾生すらもこの危機に立ち向かっていた。 雪男は燐のことを常に気にかけていた。戦いを繰り広げながらも、意識の片隅に兄の姿を見る。 悪魔という敵がいる以上、一番の危険は兄にあるのだから。 「兄さん、気をつけて」 「わーかってるよ!」 燐の声音は常に明るい。今はそれがひどく不安感を煽る。底抜けの明るさの中に、いくつもの綻びがあるのは気のせいだと雪男は自分に言い聞かせた。 銃弾を悪魔に打ち込みながら、周りに気を配って現状を把握しなければならない。たかが下級悪魔だ、塾生でも倒せるだろう。そんな先入観と驕りが、雪男の神経を鈍らせた。 「…っ雪男!!」 兄の声を聞いた時にはすでに遅く、鋭い痛みが走った後、鈍く地面に身体が打ち付けられる感覚。「雪ちゃん!」「奥村先生!」と誰かが叫ぶ声がした。 頭がひどく痛い。軽い脳震盪でも起こしたか。鈍る頭で振り返ると、滲む視界に既視感のある悪魔。 「アマイ、モン」 そう呟いたのは自分なのか、燐なのか、はたまた別の誰かだったか、もはやそんな判断力すら雪男にはなかった。 アマイモンだけではなかった。見るからに他とは線を逸した悪魔がそこには存在し、高圧的に雪男たちを見下ろしていた。 続いて轟音。突如襲い来る圧力に抗うことすら許されず、地面に這いつくばることを余儀なくされた。 身体の支えは均衡を失い、人間である以上はそれを振り切って立ち上がることはできない。雪男以外も、塾生は勿論、シュラですらである。 地面は割れてはいなかった。地震のような轟音でさえ、周りの木々や建物に傷一つつけてはいなかった。 そう。雪男たちが倒れたのは、圧倒的な力の差だった。 胸が締め付けられるような感覚。精神的なそれではなく、物理的に押さえ付けられた苦しみ。その苦しみに歯を食いしばり堪えるのが、今の雪男に出来る精一杯だった。 ふと、地面が擦れる音。頭に触れる温かな温もりを雪男は感じる。 「…もう、いいだろ」 静かに、響く。それは正しく燐の声だった。普段の底抜けの明るさとは正反対の、脆さを含んだ声だった。 兄の柔らかい手が雪男の頭を撫でる。悪魔と面と向かい、雪男を庇うような体制だった。 ―――兄さんは、悪魔、だから。 この状況で立っていられる。自分が人間だから、兄に庇われている。 どうして。 そう問い掛けずにはいられなかったが、なぜか声はでなかった。喉元でつかえた声は空を僅かに押すのみだった。 「―…大丈夫だ」 兄は、笑っていた。 今までのどんな笑顔より、慈愛を帯びた表情だった。 「俺が、守ってやるから」 違う。 違う違う違う違う違う!! 雪男は慟哭する。 (僕は、兄さんを守るために、祓魔師になった、のに) また守られてばかりなのか。不甲斐ない自分を叱咤して、兄さん、と消え入りそうな声で言う。 ふと、兄の手が自分の視界を覆った。温かな、誰よりも好きな体温に、兄の姿が掻き消される。 「…さよなら、だな」 震える兄の手越しに、上から温かな雫を感じた。 瞼越しに見える青い燐光さえも、今二人を引き離さんとしている。 next... :::::::::::::: n番煎じですが! 一度は連載したい話だった。 CP色は薄いです。 ハッピーエンドになるかすら未定。 暖かい目で見ていただければ! |