受胎される恋


兄の横顔を見つめる。
それは奥村雪男にとってもはや癖となりつつあった。二卵性双生児。一卵性と比べて外見に差異ができやすいとはよく聞く話だが、それでもこんなに違うものなのか。
いま兄にあたる奥村燐は雪男の傍で大口を開けて眠っていた。普段比較的静かに眠る雪男とは違い、燐は大の字になって無防備に眠る。


「…ぅ、ん」


燐が身じろぎする。だがそこには何の警戒心もなく、ただ安眠を貪る本能的な部分が見えた。


「……にいさん」


雪男はそっと呟く。声は眠る燐には届くはずもなく、ただその空間に反響するだけだ。その吐息には、何処か背徳的な響がある。


「………燐」


甘い声。
燐本人には決して言わない名前。
雪男は切なげに眉を寄せる。
優しい面立ち、穏やかな内面、静かに眠るその態度の裏に激情を隠していると、きっと燐は気づかない。
優しさという壁で周囲を鎧い、雪男はきっとこの禁忌を奥底へ押しやる。
だが雪男にはそれを隠して尚他より優越を感じる事が出来た。


「……兄さん」


名前より甘美な響をもった称号。
胎内からずっと、弟は兄に恋していた。
言葉なんて生易しいもので塗り潰されない確信。決して薄れることのない愛。
兄の額に口づけ、雪男はまた燐が目覚める前に、優しさを鎧うのだ。


end


あとがき
雪→→→(←)燐、雪男がナチュラル病みはデフォ。



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