藍染 ワコは匂いというものに敏感であった。食べ物の匂いを筆頭に、人物のかぎ分けもできるという驚異的な嗅覚の持ち主であった。実際タクトが海岸に打ち上げられていた時に知らない男の子の匂いだと気付いて彼の命を救ったのも彼女である。 そんなワコは最近あることに気付いたのである。 一度気付いて芽生えた疑問というものはなかなか消えてくれないらしく、ついつい目で『彼』を追ってしまうのだ。 ここで宣言しておこう、アゲマキ・ワコと言う人物は探究心が人一倍旺盛であり、疑問を解決するためなら、多少女という性別を捨てる行動すらも厭わないと!! 有言実行、猪突猛進。ワコは自身に巣くう疑問の芽を摘むために彼のところへ行くのであった。 タクトとスガタは教室の窓際、つまりタクトの席の付近で談笑を交わしていた。二人は互いに気兼ねなどしない関係であった。同じクラスメートだという括りだけにするにはあまりにも親密な関係へと進んでいた二人の間に割って入るような勇気ある生徒はいないようで、二人だけの世界がそこには展開されていた(いつもタクトにちょっかいをかけるミセス・ワタナベも心底楽しそうに二人を見つめるに留まっている)。 だがおかしそうに笑うタクトの首筋に、予想だにしなかった刺激が訪れる。 「ひ、ゃあ、っ!?」 普段のタクトからは想像もしない甲高く、どこか甘さを含んだ声に、教室は一瞬凍り付く。しかし刺激を与えた犯人は我関せずと言わんばかりにタクトの―匂いを、嗅いでいた。 「ワ、ワ、ワコっ!? な、何やって―…」 「………やっぱり」 ワコはタクトの首筋から顔をあげて、疑問に満ち満ちた顔をした。 「……タクト君から、スガタ君と同じ匂いがする。」 爆弾、投下。 またしても空気が凍った。 言われた彼は、まるで意味がわからないようにその言葉を咀嚼したあと、急に顔をその髪と同じくらい真っ赤にした。 「な、な、な…っ」 教室にいる面々は確信する。 絶対になにかある。 「ワ、ワコの、気のせいじゃないかな…っ 僕、スガタん家に泊まってるし…っ」 「えーっ、でもジャガーさんとかからは匂いしないもん」 どうしてかなあ。そう呟くワコの瞳に悪気の色は一切認められない。それが何よりタクトを動揺させる。 「(僕に、スガタの匂いがついてる、なんて―…!)」 クラスメイトの視線とワコの声にとうとう羞恥が我慢の限界をこえたのか、タクトはその場から脱兎の如く逃げ出した。 「ごめん」なんて言葉を言い残して。 「全く、タクトのやつ」 これでは皆に二人の間になにかあったと自白しているようなものではないか。スガタは彼が走り去った扉を見つめながら苦笑する。 「スガタ君」 「…ん、なんだ?」 「タクト君に、なにかした…?」 見つめてくる彼女の無垢な瞳を優しく見つめ、そして悪戯に目を歪め、 「…さあな?」 心底楽しそうに、笑った。 (…残念ながらここから先は、有料だからな) end あとがき 藍に染まる。愛に染まる。 ワコ様が匂いで二人の関係を察知出来るほど、二人がリア充してたんだよ、という話。 それにしてもこのサイトのタクトは恥ずかしがってばかりである。 |