フレーバーに酔う


タクトとスガタ、そしてワコは3人で街道に繰り出していた。ワコの強い要望で小さなアイスクリームの店に立ち寄り、色鮮やかなそれを食べる。
店にはフレーバーの甘い香がほのかに漂い心地よい空間を作り出す。二段乗った内の苺のアイスクリームをかぶりつくように口の中に入れたワコは、こめかみの辺りを指でおさえながら、目をきつくつぶった。


「そんなに急いで食べなくてもいいのに」


タクトが苦笑を含んだ、それでも柔らかな声音で言う。ワコは何をーっと食ってかかるように、しかし楽しそうにアイスクリームの魅力を語り出す。タクトは引き気味になりつつも話に曖昧な相槌を打った。
スガタはそんな二人を慈愛を含んだ穏やかな目で見ていた。それは親愛にも似つつ、また恋慕にも似ている色をしていた。だがスガタも仮にもタクトを想う故、例え幼なじみとはいえ、女の子と楽しげに話すタクトを見て面白い気はしなかった(タクトは紳士的な人格を持つということはもとより承知だったのだが)。
そこで彼はタクトの手に持つアイスクリームから緩く雫が滴り落ちるに気付く。みるみるうちにスガタの顔が悪戯心に歪んだ。


「ひ、ぁっ!?」


タクトの声が驚きに跳ね上がる。いつの間にか手に伝っていたアイスクリームをスガタが舐め取ったからである。


「どうした?」
「ス、スガタ!!何を…!」
「何って」


舐めただけだけど? 何事もなかったかのように話すと、言葉が詰まり、何も言い返せなくなってしまう。ワコはワコで二人とも、えっちなんだからっ!!と言いながら妄想の世界に入ってしまったようだ。タクトをこの羞恥から助けてくれるような人はいない。たちまちタクトは「あ、う…」と意味を持たない母音を繰り返しながら俯いてしまった。
そんな彼の姿はスガタを引き付けるには十分で、また同時に嗜虐心を煽るようなものだった。


「タクト、またついてる」
「…っあ!?」


頬に感じたぬめった感触に悲鳴をあげる。ワコの黄色い歓声を背景に、スガタは口の中に未だ残る甘い味に口角をあげた。



end


あとがき
季節外れすみませ…!!
修学旅行で食べたアイスクリーム美味しかったんで、つい←


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