「……はちざえもん」

お風呂上がりに喉が乾いてスポーツドリンクを飲んでいると、バスタオルだけ肩にかけた勘右衛門が近付いて来た。その辺の近所ではそう見掛けることのない可愛らしい少年が自分の部屋にいるという状況にもだいぶ慣れてきた。

「おー。お前も飲む、か……」

バスタオルの隙間から頭を擡げた彼のイチモツを見た俺はぎょっとして後退る。少年のちんちんを見てこんなに動揺したことは未だかつてない。

「おいっ、服は洗面所の籠にあったろ!」

目の遣り場に困って視線が天井と床を往復するが、それでも目に入る物は入ってしまう。

「はちざえもん、俺……」

辛そうな声色に気が付いて、恐る恐る焦点を合わせると彼は顔を真っ赤にして、ハァハァと息が荒くなっている。

「もしかして逆上せたか?」

俺は慌てて勘右衛門のおでこに手をやった。少し熱っぽいだろうか。体温が高くなっている。しかし、単純に逆上せたと言うには苦しそうだ。

「どうした。また熱がぶり返したか」
「俺……、はちざえもんの……ちんちんが、舐めたくってぇ……」

そう言いながら勘右衛門の膨らみがひくひくと動く。

「はぁっ!?何を言ってるんだ、お前は。そんなことより早く服着て横になれ」

熱が出て意識が朦朧としているようだ。彼の言葉に俺の方が赤面してしまう。

「あ、寝かせる前に髪乾かさないと」

取り敢えずこれ着てろ!、とベッドの上に放り出したままにしていた俺のスウェットを頭から被せた。洗面からドライヤーを持って来て、プラグをコンセントに挿し、ベッドに腰を下ろす。

「こっち来い」

手招きすると勘右衛門はとてとてと覚束ない足取りながら従順に俺の目の前まで歩いてくる。足の間をポンポンと叩いて座るよう促し、俺はドライヤーのスイッチを入れて温風を当てながら勘右衛門の髪を手で掬い乾かす。「熱かったら言うんだぞ」と耳元に唇を近付けて言うと、勘右衛門は擽ったそうに首を竦めてから、大丈夫、と頷いた。彼の髪を乾かしながら華奢な肩だと思った。もっといっぱい栄養のある物を食べさせて、体力をつけさせてやらなくちゃならない。水気から解放された短い髪は指の間で軽やかに踊り出す。そんな時、頭の上に乗った二つの耳が目に留まる。どうやって生えているのか気になって耳の付け根を親指の腹で撫でてみると、髪の生えた頭皮からなだらかに隆起して、ふさふさの毛が生えた獣の耳に繋がっている。とても不思議だ。でも、触り心地はなかなか良い。ついふにふにとしつこく耳を触っていたら、もう我慢できないと言うように、勘右衛門が頭をぷるぷるっと振った。俺は直ぐに手を離し、ドライヤーの電源を切る。

「おっ、わりぃわりぃ」

そう言えば勘右衛門は耳が弱いと言っていたことを思い出した。怒られるだろうか、と身構えていたら振り返った勘右衛門は俺の胸に抱き着く。

「はちざえもん……っ」

どうした、と訊ねようとして、股間に股間を押し付けられて言葉が喉の奥に引っ込む。さらに勘右衛門は腰をくねらせて、硬いそこをぐりぐり押し付けて来るものだから俺は後ろに腰を引こうとしてそれができずにベッドに仰向けに倒れ込んだ。

「お、おい。待て待て、落ち着け!」

勘右衛門は覆い被さると俺をじっと真剣な目で見つめるので俺は両手を自分の顔の前に盾にして首を振る。二十歳を過ぎて自分が少年に襲われる日が来ようとは。

「自慰の許可を、ください……っ」

想定外の言葉に理解が追いつかない。指の間から様子を伺うと涙声の彼は必死に俺に何かの許可を得ようとしている。

「じ、自慰ってオナニーのことか……?それなら、トイレでしてきていいぞ」

ペット型人間には主の許可がなければ自慰をしてはいけないというルールがあるのだろうか。しかし、俺の言葉に勘右衛門は首を振る。

「ご主人様の体に触れなければ、熱は治らない」

勘右衛門が言うにはこういうことだ。ペット型の人間は週に一度は自分の飼い主と触れ合い、欲望を吐き出す必要がある。そのサイクルが上手く行かないと体調を崩して熱を出し、その状態が半年も続けばやがて死んでしまう。飼い主との触れ合いが彼らにとっては何よりの活力となるそうだ。

「はちざえもんは何もしなくていい。このままちょっと横になっていて、少しの間、おちんちんを貸してくれさえすれば、俺は勝手に舐めながら自分でするから」
「な、舐め……っ!?」

客観的に想像したらそれはあられもない絵面だった。俺の顔は意図せず真っ赤になる。そんなこと、勘右衛門が望んでいるとしてもさせられる訳がない。他にやり方はないだろうか。

「なぁ、勘右衛門。その、俺と触れ合いながらすればいいんだろう?だったら、そんなことしなくても、俺がお前をイかせてやるっていうのはどうだ?」

勘右衛門の狸の耳がきゅいっと内側を向いて、驚いたように瞳孔が絞られる。

「はちざえもんが、俺を……?」
「その、正直言って経験はないけど、自分でする時みたいに手を貸すことはできるからさ」

勘右衛門が変な気を起こす前に、俺は起き上がってスウェットの下に手を差し入れ、熱い芯を握った。

「ひゃっ!」
「すげぇ、濡れてる……」

勘右衛門が俺の言葉に耳を真っ赤に染めるのを見て、安っぽいAVみたいな不躾な台詞を言ってしまったことを後悔したが、思わず呟いてしまうほど、勘右衛門のそこはしとどに濡れていた。あれだけつらそうにしていたのも納得が行く。欲求不満という状態はたぶん、普通の人間よりも彼らにとってははるかにつらいことなのだ。軽く握って上下に擦るだけで、くちくちと濡れた音が響く。

「ぁあっ、うぅ〜っ」

眉根をぎゅっと寄せ、唇を噛み締めながら、勘右衛門は後ろにずるずると倒れ込む。何のテクニックもなしに扱いているだけで本当に気持ち良さそうな顔をするものだから、俺もついもっと気持ち良くさせてやりたいと、男の本能が疼いて逆手にして先端を重点的に責める。すると勘右衛門がもっとしてほしいと言うように腰を上げるものだから、そのいやらしさに自然と鼻息が荒くなった。

「はんっ、」

ふるりと左右に揺れる膨らみに目をつけた俺は、ほんの出来心でそれをつん、とつついてみる。しかし、それに対する勘右衛門の反応は予想以上に良かった。

「ぁんんっ!」

腰が大きく跳ねるのが面白くてさらにまた、つんつんっと強めにつつくとそれから逃げるように腰を捻って横向きになる。俺は右手で亀頭を扱きながら、左手で勘右衛門の玉を捕まえた。勘右衛門の狸の尻尾が、びぃんっと何か見えない糸で引っ張られたかのように真っ直ぐになる。男にとっては敏感なところだから優しく握り込みつつ、親指の腹で優しく指圧してみる。そこが本当に気持ち良いらしく、くねくねと腰を躍らせる様子は可愛らしくて、いつの間にか彼を責めることに夢中になっている自分がいた。

「ひぃっ、あっ、そこっ、だめ、ぁんんっ」

それは、むにむにと何だか癖になる感触で、こんなところが敏感なんて、と俺は金玉の大きな信楽焼の狸を思い出していた。そう言えば勘右衛門の耳と尻尾は狸の物だから、そういうことなのかな、と妙に納得してしまう。

「あぅうっ!だめっ、あっ、あっ、イっちゃうーっ!!」

そんなことを考えていたら、勘右衛門が突然射精した。俺はびっくりしてティッシュの箱に手を伸ばすが、その間に勢い良く精液が次々と俺のスウェットに吐き出される。勘右衛門自身、それを呆気に取られて見つめながら、長い射精を終えると、突然腕で目元を覆って泣き出した。

「うーっ、ごめっ、ごめんなさいっ!」
「泣くなって。服は洗濯すれば綺麗になるんだから。どうして謝る?」

何かを恐れるように身を縮める彼に戸惑いながら、俺はティッシュで服に飛んだ液体を拭いた。

「だってっ、勝手に、イっちゃったからぁ……っ!」

きっと前の主人は彼をそのように躾けたのだろう。射精するタイミングすら自分で選べないとは。感情が抑えきれない様子の勘右衛門をぎゅっと抱き締めた。

「これからはいつイったっていいんだ。オナニーだってムラムラしたらいつだってしていい。我慢するのが一番体に悪い」
「本当……?」

俺を見つめる瞳は、純度の高い宝石のように澄んで、きらきらとしていた。

「本当だ」

ありがとう……、と心底嬉しそうに微笑む勘右衛門を見て、俺も幸せな気持ちになる。着替えを済ませ、すっかり気持ちも体調も落ち着いた容姿の勘右衛門にほっとしながら、今夜は早めに就寝することにした。しかし、電気を消して、隣で勘右衛門の寝息が聞こえ始めてもこちらは一向に寝れない。寝返りを打つこと5回目。俺は起き上がり、こっそりトイレに入って鍵を閉めた。ズボンとパンツを下ろして、熱を持った息子を握り、さっきの勘右衛門の痴態を想像しながら扱く。何をやっているんだ、俺は。でも、ムラムラと湧き上がる本能に嘘はつけない。妄想だけをオカズに達するのは本当に久々のことで、俺はトイレの天井は見上げ、しばし冷静な頭で考える。俺、さっきは勘右衛門にいつオナニーしたっていいって言ったけど、彼がオナニーするということは俺の介助が必要と言うことで、それはつまり俺はこれからずっと悶々しながら彼の自慰を手伝うという誓約を立ててしまったということなんじゃないかと、悟ってしまった深夜であった。
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