それからしばらくして勘右衛門の熱も下がり、体力も戻って来た頃のこと。
「傷も、大分良くなって来たな」
「こんなに肌が綺麗なの、本当に久しぶり!」
勘右衛門は上に着ていた俺の大きめのスウェットを脱ぐとボクサーパンツ一枚になって自分の体を嬉しそうに撫でる。下着は取り敢えず急いで何枚か買ってきたが、服も買ってやらないとな、と考える。ところで、傷が治ったのは良かったが、いつまでも服を着ようとしない。白い肌と桃色のつやつやとした乳首が目について俺は目のやり場に困った。男の子相手にこんな感情を持つことになろうとは夢にも思わなかったが、彼はやたらと綺麗な体をしているだ。
「そろそろ服を着たらどうだ。風邪引くぞ」
「ううん。俺たちペット型は体温が高いから大丈夫。前いたところでは冬でも短パンで、夏はほとんどパンツ一枚だったし、あとは衣装を着ることもあったけど」
「衣装?」
「うん。パーティーの時とかご主人様の要望があった時はえっちな衣装を着るの。例えばバニーガールの格好をするんだけど、お臍から下の部分に縦の裂け目が入っていて、勃起したら自然とおちんちんが外に飛び出しちゃったりするやつ。俺だけいつもすぐに勃起して叱られてたなぁ」
「な……」
「あ、パンツもこういうちゃんとしたのじゃなくて、スケスケのレースのとか、おちんちんだけ入る袋が付いてる紐パンとか」
普通の少年であれば一生する機会もないであろうそんな破廉恥な格好をさせられていたとは。駄目だ、うっかり目の前の勘右衛門がそういう格好をしているところを想像して胸がざわざわする。俺は胸をさすった。
「でも、ここではいつも服を着ていていいんだぞ。今は冬なんだし、流石に寒いだろう」
「うん。ご主人様が服を着ている方が好きだったらそうする!真夏は暑いから裸でいる方が好きなんだけど」
勘右衛門がスウェットを拾ってまた着てくれたのを見てほっとする。裸の男の子に目の前をうろうろされていたら流石に落ち着かない。でも夏になったら俺の部屋の中でいつも裸の少年がうろうろすることになるのだろうか。
「あのね、俺、裁縫を勉強したくって」
「裁縫?」
「八左ヱ門の破けている服とか直したいんだ」
貧乏学生だということと面倒くさいので多少のほつれや穴はそのままにして着ている。ちょっとでも役に立ちたいから!と目をきらきらさせる勘右衛門の頭を「ありがとな」と撫でる。
「わからないことがあったら俺のパソコンで調べたらいいよ。俺は裁縫とかほとんどしないからやり方わからないけど、動画とかも検索できると思うし」
「八左ヱ門のパソコンってそれ?触っていいの?」
「もちろん。ここに何か調べたいキーワードを入力すると知りたい内容が書かれているページが検索できるんだ」
俺はマウスを操作してインターネットの画面を開いて見せる。
「文字を打つ時はローマ字読みで入力するんだ。何か打ってみな」
「ええと……ぼ、……た、ん……つ……け」
ペットと言えどしつけの一環で勉強もしっかりやらなければいけなかったようで、読み書きも問題なさそうだし、勉強だけでなく、ご主人様を喜ばせるためにヴァイオリンやポールダンスも習っていたのだとか。「俺、ヴァイオリンもダンスも全然できなくて、本当に落ちこぼれだったんだ」と項垂れる勘右衛門を見て、もっと自信をつけさせてやりたいと思った。誰でも得意不得意がある。興味を持ったことは何でも試させてやりたい。
「変換する時はこの横長のスペースキーな」
スペースキーを押すとひらがなの文字が“ボタン付け”と変換されて、エンターキーを押せば関連ページが一覧で表示される。すごい!と目をきらきらさせる勘右衛門。
「これって何でも検索できるの?」
「ああ。だいたいの物は出てくるな」
「えっちな物も?」
「え、」
勘右衛門がきらきらした目を俺に向ける。まぁ、年頃の男の子だし、興味はあって当然だろう。ただ、わからずに何でもかんでもアクセスしてパソコンがウイルスに感染したり、課金ボタンを押されては困ると思った。
「もしそういう物が見たくなったらここのお気に入りってフォルダの中にあるこの辺の動画サイトを見といてくれ」
「なるほど」
恥を忍んで自分が普段オカズに利用しているサイトを教えておく。これで大丈夫だろうと思っていた俺はペット型人間の性欲の特性についてその時まだ良く理解していなかった。
「熱も下がったし、風呂入ってみるか?」
夕飯の後、お風呂が沸いたところで、勘右衛門に訊ねる。
「うん!」
頷いた勘右衛門をお風呂場に連れて行って、これがシャンプーでこっちがボディーソープ、タオルはそこ、と説明する。ゆっくり入って来な〜と背を向けて立ち去ろうとしたらパーカーの裾をくいっと引っ張られた。
「八左ヱ門」
振り返ると勘右衛門が困った顔で俺を見ている。丸い耳がちょっと項垂れていて、大きく無垢な瞳が俺のことをおずおずと見上げている。
「俺、お湯の出し方とか止め方とかよくわからないから、一緒に、入りたい……」
一人になるのが不安なのかもしれない。俺がいいぞ、と返事をすると勘右衛門は頬を染めてにっこりと笑った。人懐っこくて可愛いなと思いながら服を脱ぐ。それを見て勘右衛門も同じように服を脱ぎ出した。その時は弟と一緒にお風呂に入るような気持ちでいたのだが、最後のパンツ一枚を脱ぎ去る姿が目に入った時、俺の心臓は大きく脈打った。細身の身体と輝く白い肌。おしりはきゅっと引き締まっていて、小さなお臍の窪みが愛らしい。淡く色付く乳首は触れると柔らかそうだ。ほっそりとした華奢な二の腕は乱暴に掴みたくなる衝動を駆り立てる。勘右衛門は脱いだ下着と服をくしゃくしゃっと丸めて両手で持ち、どうしたら良いのかとおどおどしている。
「洗濯物はその籠に入れておいてくれ」
俺が自分の脱いだ物を、ぽいっと洗濯籠の中に放り投げるのを見て、勘右衛門はほっとしたように籠に服を入れた。そうして俺の方を振り返った勘右衛門は固まり、俺の体を見つめる。目がきょろきょろと四方八方に動いて俺の全身をつぶさに観察しているようだった。そして黒目の動きが止まった。一点に物凄く視線を感じる。昔の主人と比べられていたら嫌だな。
「あー……入るぞ」
俺は気付かないふりをして浴室のドアを開ける。そんなに自分の体を誰かにじっくり観察されたことなどないからどうして良いかわからない。内心若干どぎまぎしながらシャワーの栓を捻る。
「ほい、髪濡らすから頭下げて」
「はーい」
素直にお辞儀の姿勢を取る勘右衛門の髪にシャワーを当てる。髪を濡らした後はシャンプーを手のひらに出してやって、勘右衛門が髪の毛を洗っている間に俺も同じように髪を洗い、交代で泡を流す。
「さて、次は体を洗うか」
「うん!」
俺がスポンジの上にボディーソープを出すのを見て、勘右衛門も少量のボディーソープを手のひらに取り、両手で擦り合わせている。スポンジ使っていいぞ、と差し出そうとしたら、勘右衛門は自分の性器を右手で握り、左手を後ろにやって股間を洗い出した。……なるほど、そこから洗う派か。声をかけるタイミングを失った俺は黙ってスポンジで自分の体を擦ることにする。俺が首周りから胸にかけてスポンジを滑らせる間、勘右衛門は一度シャワーで泡を洗い流し、またボディーソープを手に取って股間に塗り付ける。え?二度洗い?洗い過ぎも良くないと思うが。
「俺、八左ヱ門の体洗う!」
「え、ああ。じゃあ、お願いしようかな」
洗いっこがしたいのか。可愛いな。俺は椅子に座ってスポンジを勘右衛門に手渡した。
「じゃあ、腕を出して」
「ん」
俺が腕を差し出すと、勘右衛門は俺の腕を跨ぎ、太腿でぎゅっと挟んだ。ん?何だ?突然の行動に混乱していると、そのまま勘右衛門の腰が前後に動いて勘右衛門の股間が腕に擦り付けられる。それと同時に手に持ったスポンジで肩周りを擦られる。何回か腰を前後する間に目の前の可愛らしい性器が心なしか膨らんで来たような。
「あっ、んっ、んっ」
それにしても随分器用な動きをする物だ。これは相当訓練を積んでいるな……っていや、そうではなくて。
「こらこら待て待て!ストップ!!」
「あっ……ごめんなさい、俺、やっぱり下手?これだけは前のご主人様にも褒めてもらえたんだけど……」
「下手とか上手いとかじゃなく!」
俺は不安そうな顔をする勘右衛門の肩に手を置いた。勘右衛門にとって体を洗いっこすると言うのは今みたいなソープごっこ紛いの行為を指すのかもしれない。しかし、俺はこの子にそんなことをさせたい訳じゃない。
「いいか、勘右衛門。この家では自分の体を使って俺を喜ばせようなんてこと、考えなくていいんだぞ」
「でも、八左ヱ門も勃ってる」
勘右衛門が膨らみかけている俺の息子を指差す。そんなところばかり目敏い。
「俺は、何もしなくても勃ちやすい体質なの」
そんな嘘にもならないことを、つい反射で口にするがひたすら顔が熱い。しかし、勘右衛門は俺のそこに視線を注ぐのに夢中で、おれが赤面していることには気付いていないようだ。
「そうなんだ……!」
むしろ期待に目を輝かせていて、ペット型の特徴なのか、どうやら勘右衛門は相当スケベらしいということが俺にも薄々わかってきた。勘右衛門の濡れた体を見る。まだ肘から下に、柔らかなふぐりと瑞々しいおしりの感触が残っている。ざわざわする胸をさすって、俺は勘右衛門の腕を引く。
「洗いっこっていうのは普通こうするのを言うんだよ」
ボディーソープをつけて泡立てたスポンジで勘右衛門の首回りを優しく撫でるように擦ると彼はくすぐったそうに首を竦めて楽しそうに笑う。俺は微笑んで胸から腹を擦ってから、ほい、とスポンジを今度は差し出した。
「俺のことも同じように洗ってくれるか?」
一瞬きょとんとした勘右衛門は、にっこり笑って「うん!」と頷いた。今度はちゃんとスポンジで俺の体を擦ってくれる。背中を隅々まで丁寧に流してくれる勘右衛門に「あー、勘右衛門に洗ってもらうと気持ちいいなぁ」と言うと「本当に?」と嬉しそうに俺の顔を覗き込む様子が可愛い。また一つ、愛情を持って触れ合うことの喜びを彼に伝えられたと思うと俺も嬉しかった。
「ふぁ〜、あったかくて気持ちぃー……」
向かい合わせで一緒に湯船に浸かると、ざぶーんとお湯が溢れる。勘右衛門と一緒に顔中の筋肉を脱力させる。
「やっぱり冬は熱い風呂に限るよなぁ。……おっ、何だ?」
俺が腕を湯船の縁に置いてため息をつくと、勘右衛門がくるりと体を回転させて背中の俺の胸にぴたりとくっ付けてくる。足の間に入られて俺は反射的に股間が当たらないように腰を引いた。
「はちざえもん……」
勘右衛門が何か物言いたげに俺のことをちらりと見てくる。俺の心臓よ、途端にうるさくなるのはやめてくれ。この状況では、勘右衛門に気付かれてしまう。
「ぎゅって、して」
自分で言っておいて恥ずかしそうに頬を赤くするので、こっちも照れながら、しかしNoと言う理由も見つからず、「お、おう……」と返事をして華奢な体を抱き締めた。肌が瑞々しくてハラハラする。俺が望み通り抱き締めてやると勘右衛門は嬉しそうに俺の腕に頬をすり寄せ、ついでにおしりを俺の股間にぐりぐりと押し付けて来た。水面と俺の心はバシャンと派手な音を立てて大きく揺れた。