Thank you!

現ぱろ



「雷蔵?」

あまりにも長い沈黙に耐え切れなくなったらしい。部屋の真ん中に下着一枚で立っている三郎は不安そうに僕の名前を呼ぶ。細く畳んだハンカチに目元を塞がれて、唯一頼りになる聴覚で僕の居どころを探っている。部屋の外に出ていったふりをして少し様子を見ようかと思っていたのだけれど、不安そうにする三郎が可愛くて手を握った。他の人に見せるいつもの飄々とした態度が嘘みたいだ。

「ここにいるよ」

すると、三郎はほっとしたように僕の声がした方を向く。

「君がこんな風に僕に可愛がられてること、他の誰も知らないよね」

三郎は俯き、だってそれは、とごにょごにょ言って耳を赤くした。僕の前だとポーカーフェイスを保てないらしい。いつまでも初々しいその反応は僕を乱暴な気持ちにさせる。

「……今日は何するんだ?」

期待を孕んだ声を聞くと、その期待に応えてあげなくちゃいけないと思う。

「何すると思う?」

今日のテーマは三郎には話していない。言ってしまったら楽しみが半減してしまう。だから、前触れなく始める。手始めに三郎の頬を人差し指の爪の先で、触れるか触れないか、そっとなぞる。三郎が擽ったそうに、でも嬉しそうに肩を竦める。

「全部、雷蔵に委ねるよ」

そうやって僕に絶対の信頼を置く君の全てを受け止めよう。僕は鼻先で三郎の首筋を辿りながら細く細く息を吐いた。鎖骨をそよ風に撫でられて三郎は小さく笑う。次に、僕は軽く曲げた状態の両手の人差し指を三郎の両乳首の前に構える。僕は部屋の時計の秒針を見た。取り敢えず一分にしておこうかな。

「ふっ、ぅん……っ?あっ!」

指の先だけを高速で動かすイメージで、あくまでも力が伝らないように、爪の先だけを三郎の乳首に当てる。触れられたことで三郎の乳首はすぐにツンと硬くなる。物足りないだろう。触られていることすら気にならない刺激かもしれない。でも、それが続くと少し感じ方が変わってくるものだ。三十秒を過ぎたあたりで三郎の体がぴくりと動く。強くするでもなく、弱くするでもなく、一定の刺激を僕は機械的に与え続ける。

「んっ」

三郎の鼻から息が漏れた。慣らされた体は貪欲に快感を拾い始めている。さて一分だ。僕は指を離した。これからという時に供給を止められて、三郎は物足りなさそうな声を出す。

「んぅ……もうお終いなのか?」
「そんなに焦らないで」

僕は指先で三郎の脇腹、肋骨のラインをなぞる。

「ぁはっ、擽ったい……っ!」
「そう?」

僕は三郎の耳たぶをこしょこしょと指先で擽った。

「擽ったいよっ」

三郎が首を竦めたので手を止める。

「んっ、今日は優しいんだな」
「いつでも優しいでしょ?」
「はぁっ……!」

ちょっと休憩したので、さっきと同じ方法で乳首を擽る。三郎の体が大きく痙攣した。今度は最初から良い反応だ。体が敏感になって来ていて、三郎の呼吸がすぐに荒くなる。「いやだっ」と小さく声を上げて身を捩るものの、大きくは動かない。体は勝手に動いてしまうものの、僕から与えられる刺激は全て享受しようと頑張っているようだ。手は自由に動くはずなのに体の横にぴたりと付けて拳をぎゅっと握り、動かさないように耐えている。そういうところはお行儀がとても良い。

「あふっ、ふぅっ」

擽っているだけの乳首から快感を得ているのは一目瞭然だった。たったの一分。でも、三郎にとっては途方もなく長い時間だったようで、僕が手を止めると三郎は肩で息をして、ふらついた。僕は三郎の腰を支え、ちらりと下を見て三郎のそこが膨らんでいるのを見た。そろそろ第二段階に入ろう。

「後ろ、ベッドだからそのまま倒れても平気だよ」
「え?どういう……っ、あっ!あひっ!あはははっ!あっ!」

僕は三郎の脇腹を全力で擽った。頭を大きく振って笑いながら大きく身を捩る三郎。逃げようとするのを追いかけて、擽り続ける。甲高い笑い声を上げてベッドに倒れ込んだ三郎にさらに追い討ちをかける。三郎が遂に手を伸ばして来た。僕の動きを止めようと僕の手を探している。その手を避けて僕は後ろ向きに三郎の膝の上に跨った。次なるターゲットはこちらだ。

「な、何っ?」

期待と不安の入り混じった三郎の声に口元が緩む。手を伸ばして三郎の足の裏に両手をセットする。よし、勝負の一分だ。僕は気合いを入れて、両手の全ての指をこしょこしょと動かした。三郎の口から耳に心地よい悲鳴が上がる。後ろから「それは無理!ぁひぃっ!」とか「ね!あはっ!本当にぃっ!あっ、だ、助けてぇっ……あははぁっ!」なんて可笑しな声が聞こえたけれど僕は自分の仕事に集中した。こうしてやってみると擽るというのも技術が要る。ずっと擽り続けているとどんどん指先に力が入りそうになるが、それでは相手が擽ったくなくなってしまうので、適度に力を抜かなくてはならない。絶妙な力加減を長時間キープするのは難しい。おまけに三郎の脚がおしりの下でジタバタと動くのを押さえつけることもしなくてはならない。僕にとっても長い一分だった。

「ふう」
「ひぃ、ひぃ、ひぃ……」

一分が経ち、僕は三郎の上から退いた。虫の息の三郎の顔を覗き込むと、ハンカチが濡れているのが見えた。涙がハンカチと目の隙間からほろりと零れる。

「ねぇ、ここも擽って欲しい?」
「え?……あふっ!」

さっきより明らかに大きく下着を突き上げるそこの天辺を爪の先で、カリカリと引っ掻いた。パクパクと口を開けるだけの三郎に、僕は下着の上から裏筋を引っ掻いて返事を促す。

「どう?」
「あぁ……っ!」

おちんちんがピクンピクンとパンツの中で動く。何てえっちなんだろう。僕は思わず喉を鳴らした。このまま気持ち良くしてあげることは簡単だ。しかし、今すぐ目一杯の快感をあげたい気持ちをぐっと抑えて手を止めた。

「三郎?」
「はぁ、はぁ……いっぱい、してほしい……っ」

三郎は自分が言うべき言葉をわかっている。自分がどうしたいかじゃなく、僕がどうしたいかってことを。

「いいよ。いっぱい擽ってあげる」

興奮が抑えきれず、声が上擦ってしまった。僕は三郎の脚の間に腰を下ろし、三郎の体が逃げないように彼の太腿に自分の脚を載せる。突き出たパンツの先端を軽く曲げた五本の指先でつまみ取るように撫でると、離れた手を追うように三郎の腰がベッドから浮く。まるで見えない糸で引っ張られているみたいだ。三郎の腰がベッドに沈んだところで、中指の爪の縁で亀頭の表面を繰り返し撫で上げる。布越しのもどかしい刺激。三郎の腰が揺れる。パンツの生地が伸び切ってしまうんじゃないかというくらい、三郎の分身は真っ直ぐに天を向いていた。そして僕はその持ち上がった下着と太腿の隙間から指先を差し入れて、竿の脇を擽るように撫で、もう片方の手では丸い膨らみをこしょこしょと擽る。

「はぁ……っ!あっ!うっ!」

三郎のテントの突端の色がじわりと濃くなる。僕はこっそり微笑んだ。そっと顔を近付け、三郎の乳首目掛けて、ふっと息を吹き掛ける。

「あ……っ!」

ちょっとした刺激にも全身を震わせる。僕は一度三郎の下着の中から手を抜いて、後ろにそっと手を伸ばし、再びいきなり足の裏を擽った。

「んぁ……?んっ、あははは!」

目を覆われている三郎は一瞬何が起こったのかわからなかったようだ。一拍遅れて笑い出し、僕の下でジタバタと両脚を動かす。

「だ、だめ……っ!ひっ!はっ!らいぞ……っ、赦して!」

僕が漸く手を止めると三郎はぴたりと動きを止めてベッドに沈み込む。そんな彼の中心だけがぴくんぴくんと動く様子が滑稽だった。

「擽られただけでそんなに気持ちいい?」
「んぅ……」

生返事をして顔を逸らす。ちょっと休憩したいというサインだ。油断している三郎の脇に手を伸ばして擽った。すぐに大笑いしながら「やめて!」と叫ぶので大人しく引き下がる。

「はぁ、はぁ……、あぁっ……」

さわさわとお腹を撫でるだけで腰をうねらせる。特にお臍から腰骨の辺りを通り過ぎる時、擽ったいのか、ぞくぞくするのか、腰をベッドから持ち上げてビクビク痙攣させている。そんな姿を眺めながら、僕はこの前のことを思い出していた。
その日、今日と同じように三郎の目を塞いで、僕は三郎の前で膝立ちになった。見えないオナホールを探して腰を突き出す三郎に「温めたローション、オナホールに注いだから好きに腰振ってみて」という僕の言葉を信じた三郎のペニスを咥内へ迎え入れた。実はオナホールなんて用意していない。挿れているのが僕の口だとバレないように舌は動かさず、息を止めた。三郎は初め慎重に腰を動かす。「あったかい……これ、何かすごいよ、雷蔵……」と言っていつもは僕に遠慮して入って来ない喉奥まで先端が侵入してくる。「すごい、初めての感触だ‥‥というかすごくリアルな感じがする」と一人で喋りながら三郎の腰の動きが少しずつ早くなる。そろそろ息を止めたままでいるのが苦しくなってきた。すると三郎の手が伸びてきて僕の頭にぶつかった。「あ、ごめん。……え。え?」初め、単純に僕の頭に手がぶつかったことに謝った三郎はたぶん大人の玩具を手にしている筈の僕の手に自分の手を添えようとしたのだと思う。しかし、僕の頬に労わるように手を添えたところで、三郎はその位置関係に違和感を覚えたらしい。そのまま僕の唇を探し当て、そこに自分のそれがすっぽり包まれているのを知って戸惑いの声を漏らす。「ごめん!その、雷蔵の口だと思わなくて……っ!」慌てて自身を引き抜こうとする三郎のおしりを鷲掴んで止めた。「雷蔵!」と三郎が絶望的に抗議する。もうここまで来たら隠すこともない。僕は止めていた息を吐き出し、まだ混乱する三郎のそれを大きく音を立てて吸った。その時の三郎の逃げようとしながらも最後は我慢できずに腰を突き出す様子と言ったら。いつだって三郎の間抜けな姿に堪らなく愛しさと興奮を覚える。



「ら、雷蔵……っ、雷蔵!」
「何だい」

ずっと下半身を爪の先でじわじわとなぞっていたらじっと耐えていた三郎が遂に声を上げた。流石にそろそろ降参かなと三郎の顔を見たら三郎は唇を震わせながら言った。

「雷蔵のが、舐めたい」

そう言われて僕は拍子抜けして思わず問い返した。

「え?舐めて欲しいんじゃなくて?」
「うん、雷蔵のを舐めながらだったらもうちょっと我慢できる気がして」

それはギブアップじゃなくて、もっと責め苦を与えて欲しいというリクエストだった。君のその僕の要求を上回る犠牲心が僕の心を擽って仕方ない。そしてそれだけじゃなく、ちゃっかり自分の欲も満たそうという正直なところが好きだ。

「じゃあ、あとどのくらい我慢できるか試してみようか」

僕は三郎の鎖骨に顎を載せ、三郎の目隠しをずらして三郎の目を見た。僕の声が弾んでいるのをきっと三郎も聞き取った筈だ。嬉しそうに目を細めて三郎が頷く。高鳴る胸と重なる二人の手。僕は三郎の頬に手を添えて優しくキスした。





拍手、ありがとうございました!拍手リクエスト「道具を使わない擽りプレイ」でした。




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