イケメン悪魔さま


「ブラボー!スーパーブラボー!ここはワタクシの天国です!」
「(悪魔が)何を言ってるんですか」

綺麗に並べられた、色んな種類の沢山のケーキ。
インゴさん待望のケーキバイキングにやってきた。

サングラスを掛けていて多少目立つが、一般的な服を着ている今の姿は只のはしゃいでいるお兄さん。
心配していたしっぽも出掛け間際にいつのまにやら消えていた。

「インゴさん、好きなだけ食べてもいいですけど、スタッフさん困らせることだけはやめて下さいね?」
「…(ティラミスガトーショコラレモンケーキモンブランミルフィーユベリータルトミルクレープショートケーキのイチゴがデカイ!ブラボー!)」
「…聞いてないや」

邪魔だとサングラスを外し、キラキラした表情でひたすらケーキを眺める悪魔さん。
まあ悪魔といえどインゴさんがむやみにトラブルを起こすとは思っていないが。

インゴさんが初めて行くならここがいいと指名したこの店は、値段は高いが(どうせ私が払う)種類がかなり豊富。
美味しさの評判も良いらしい。

「私先に席に着いてますからねー?」

一声掛けて、イチゴショートとティラミスを皿に取り、ドリンクを片手に一応窓際を避けた席についた。

冷たいドリンクをストローからグーっと飲む。

「ふぅ…美味し」

人で賑わう店内。
流石人気店だけあって女性客はもちろんカップルも多い。

因みにインゴさんと私はカップルとは程遠く見られているだろう。
インゴさんは背が高くて何より大人の色気がある。私は小さいしどう頑張っても兄と妹くらいにしか見えない。
さっきのハイテンションインゴさんを女性スタッフはほのぼのとした表情で、周りの女性客もお兄ちゃんケーキが大好きなのねうふふって微笑ましく見ていた。

暫くして、厳選しましたとケーキが(それでも)ズラリ並んだ皿を持ってきたインゴさん。

小皿によそったケーキをフォークでひと切れひと切れ、切り分けて口に運ぶ。
綺麗に食べるなあ…と少し感心。

「よく太りませんよね…」
「栄養を摂る為の食事ではありませんからね」

成る程、先ずカロリーなんて気にする身体じゃないのか。
「ねえあの人かっこよくない?」
「誰?」
「ほらあの妹と一緒にいる…」
「わあホント、イケメン!」
「妹より食べてるよかわい〜っ」
「甘いもの好きなのかなぁ」

少し離れたテーブルで聞こえてきた女性客の会話。
おそらく私たちの…今ケーキに夢中のインゴさんのことを言ってるのだろう(因みにインゴさん、既にケーキ3個目に入りました)
インゴさんは人間から見てもイケメンの部類だ。
スラリとして綺麗と言えるくらい整った顔立ち。女性は放っておけないだろう。
そんなことより、こんな超イケメンを連れてるのに妹にしか見られない私。ちょっと悲しい。

「メルル」
「はい…ってえっ!?」

ぼーっとしていたらインゴさんは食べていたケーキをフォークに切りとり私に向けて差し出した。

「…あの?」
「食べなさい」
「え、でも」
「食べなさい」

一度やってみたかったのです、とぐいぐい差し出すケーキの乗ったフォーク。
あれ、これって食べさせてくれるってこと?なのかな…いやいやいやいや、普通に恥ずかしいし!
イケメンとこんなベタなやり取りするんだから尚更無駄に意識してしまう。
もー!誰だインゴさんに変なこと教えた奴は…あっテレビか。

「とっとと口を開きなさいこの愚図が。ワタクシを待たせるつもりですか」
「ひどい」
「いいからはやくなさい」

食べさせてあげたい相手にこの言いぐさ。
恥ずかしいけど煩いので仕方なしに口をあけた。

ぱくり、口にひろがる甘い味。
インゴさんのフォークだとか考えないようにした。

「どうですか?」
「…おいしいです」

きっとここの会話までやりたかったのだろう。
さっきの女性客がきゃあきゃあ言う中、インゴさん(だけ)は満足そうだ。

「メルルもう一口食べなさい」
「はいはいわかりました。あー…」
「おっとぉ!手が滑りました。おや、メルルの頬にクリームがついてしまいました!これはいけません直ぐに…」
「っ…!」
ごしごしごしごしごしごしごしごしごしごしごしごしごしごし…―

私は近くの紙ナプキンで頬のクリームを拭き取った。

「あハハはははは!インゴさんおっちょこちょいなんですからあ!教えてくれてありがとうございますね!綺麗に拭き取れました」
「チッ…」

インゴさんはつまらなそうな顔をした。
手が滑った?嘘つけ。
頬にクリームとか…絶対定番のあれをやろうとしただろう。
マジやめていただきたい。


そんなイケメン悪魔は、その美貌でバイキング無料券を店員さんからゲットしましたとさ。

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