かまって!


「トトリ〜ボクのネクタイ知らない?赤いやつ〜」
「もう、エメット様がこんなにしなければすぐにお渡しできたのですよ」

朝、エメット様を起こしに部屋にお伺いしたところ、既に部屋中が服で散らかっていました。クローゼットは開きっぱなし、そこから沢山の服が床や椅子の背、ベットの上にまであります。
エメット様…早起きなのは良いのですけれど、私はこうして毎朝かたずけから始めなくてはならないのです。
ベッドに腰掛け足をくむエメット様は既にご自分で選んだシャツとスラックスを着て、残りのネクタイを私に捜させます。
あちらこちらを探しますが今日もなかなか見つかりません。

「ねートトリ。ボク今日サボっていいカナ?」
「お仕事をですか?」
「今夜のパーティーさ」
「いけません。亡くなられたお父様の前からのお願いでもあるのでしょう?きちんとお顔を出さなくては」

半年ほど前、この屋敷の主であった旦那様は、患っていた病気が原因により急逝されました。そして今夜開かれるパーティーには必ず出席してほしい、と息子であるインゴ様とエメット様に前から仰っていたのです。

「あんなの絶対つまんないって〜。ボクやだな」
口を尖らせて子どものように駄々をこねるエメット様。
見初められるのを期待して出席されるお嬢様方をお相手するのですから、やはり大変なのでしょうか。

「そう私に仰られましても…それに、メイドの私には想像もできない世界です」
「そうだ!トトリも来ない?パーティー!きっと将来のフィアンセが見つかるよ」
クスクスと楽しそうにそう話すエメット様は、もしかして私を皮肉っていらしゃるのでしょうか…

「…。自分だって独身のくせに」
「なんか言った?」
エメット様の口元がさらに弧を描きます。兄弟そろって地獄耳なのです。
服を掻き集めながらネクタイを探しているのですが、背を向けこの距離でも聞こえてしまうなんて…怖い双子です。

「いいえ、なにも」
わざと一呼吸置いて否定の言葉を述べます。私を小馬鹿にしたささやかなる仕返しです。
「あっそ」
エメット様は気にした様子もなく、自分もネクタイを探しにかかりました。

「あ…」
「どうかされましたか?」
「アハ、ベストの下に隠れてたみたい…♪ネクタイ」
「だからあれほど…。私言いましたよね、ベストと一緒に紛れてはないかと」
「ごめんごめん。トトリ、怒んないで?」
私の肩にそっと手を置き、首を傾ける。
背の高いエメット様を至近距離から見上げると首が辛いです。
「今度からはお気を付けくださいね」

漏らしそうになるため息をグッと堪え、とりあえず自分の両手にあった服たちをクローゼットにしまいます。

「残りの服は後で私がしまっておきますから、何も触らずそのままにしておいて下さい?…ではエメット様、時間が推してますから着替えは自分でよろしくお願いします」
「えーネクタイまでやって〜」
「そろそろインゴ様のお部屋にも行かなくては間に合いません」
インゴ様はエメット様とは違ってなかなか起きない方ですから、根気が必要です。
私は不満を漏らすエメット様を無視してドアまで一直線。
扉を閉める前にお声をかけます。
「今日のご予定の確認もお二人が揃ってからお伝えします。あとエメット様。服をお選びになる際は私を呼んでくさいね、ネクタイを探す時間が無ければお着替えのお手伝いも出来たのですから」
「はいはーい♪次はトトリを呼ぶことにするよ」
エメット様は返事をしながら、ベストを着てネクタイを鏡の前であわせていました。いつもこのくらい早く着替えてくださると助かるのですが。
鼻歌が聞こえます。機嫌が良くなられたのか、さっきまで駄々をこねて口を尖らせていたのが嘘のようでした。

「トトリ、」
「はい」
「おはよう。遅れたけど」

エメット様のふわりと笑うその笑顔が素敵です。

「おはようございますエメット様」

私にとっては2度目の挨拶の後、深々とお辞儀をして静かに扉を閉じました。

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ケイナちゃんイメージ
幼なじみ設定おいしいよね