無味


イライラ、

ソファーに二人で座っているのだけれど、チラッと横目で隣を見ればインゴさんは少し苛ついて、そわそわしていた。

あ、いつものアレだ。

少し上の空でぼうっとして、きっともう暫くしたら、項垂れため息をするのだ。

「……。ハァ…」

ほらね。

こんなインゴさんはとても、いやかなり珍しいのだけれど、最近よくこの姿を見るので少し慣れてきた。

「そんなに我慢しなくてもいいんですよ?」

煙草。
そう言うと、彼の情けない表情がみるみる厳しい顔になって眉間にしわをよせ軽く睨まれた。

「お前はワタクシの心配より自分の心配をなさい」
「たまにくらい…じゃあ私の居ない所でならいいでしょう?インゴさんも気を使わなくて済むじゃないですか」
「ワタクシは産むまで吸わないと決めたのです」

インゴさんは強めにハッキリとそう言った。

私が妊娠を知らせた日から、禁煙を始めたインゴさん。
一切吸わないと決めたらしいが、本数を減らすだけでも苦労しそうなのに、愛煙家の彼に完全禁煙はかなりキツイだろう。

「今日くらい私に構わないで、少し息抜きくらい…」
「トトリ…」

せっかくの貴重な休日なんですから。と続けたかったが、インゴさんは言葉を遮ってギロリと私を睨み付けてきた。
ポケモンも震え上がりそうなインゴさんのにらみつける…久しぶりに昔の彼を見た気がした。

「ワタクシはお前と腹の子が心配でたまらないのです。今はお前から片時も目を離したくない」
「でも…」
「お前から離れたくないのです」
「ぁ…う」

なんだろう、
嬉しいけど凄く恥ずかしい。
インゴさんってこんなことを言う人だったっけ。
失礼な言い方かもしれないが妊娠してからは普段の何倍も優しくて、気遣って仕事の帰りも早いし、こんな感じだし、ホント調子が狂ってしまう。

「トトリ、こちらへ」

互いにソファーの隣に座る距離をより縮めると、優しく腕を回され口付けられた。

……。

「トトリ?」
「っ、なんでもないです」

嬉しい。嬉しいなあ…

煙草味のキスも好きだったけど、今は殆どしなくて。
仕事中でも私が居なくても本当に煙草をしてないんだと、彼が口付ける度、愛されてるんだとこんな所でわかってしまう。
頬は熱いし、少し涙ぐみそうだ。

「…今更照れるようなことですか」
「…インゴさん」
「ハイ?」
「もう、ホントに…大好きです。好きです…」

言葉じゃ足りないくらいの感謝の気持ちと愛しい気持ちに、ぎゅうと彼の胸に顔を埋めた。

「ほう…トトリからそんな言葉を聞けるのは珍しいですね」

一度ニヤ、と笑って。
そして私の頬をひと撫でして微笑んだ。

「私、がんばってインゴさんとの子供産みます」
「エエ、是非元気な子をお願いします。何でしたら今からパパと呼んで構いませんが?」

インゴさんが冗談を言うなんて。
ホントどうしたのインゴさん。

「でも本当にたまには息抜きしてくださいパパ」
「産めば嫌と言うほど吸ってやりますからご心配なく。お前も抱き潰してやりますから覚悟しておきなさいトトリ」

ニヤリと笑って、無味のキスをもう一度くれた。


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産んだら吸いまくるとか言ってるけど、出産後には結局減本してるインゴさん。パパエライ!
だか嫁は抱く。