夜空


「エメットくん、こっち、見て綺麗だよ」
キミの方が綺麗だよ。
ぶ。アリエナイよねこんな臭い台詞。
でも結構本気で思ってる。んだけどなあ〜…
ボクってホント不憫。本気で言っても信じてもらえない。
自業自得だって?
まぁ…そう言われちゃボクは何も言い返せないのだけど。
トトリが鈍感なのかはたまたボクが今まで軽すぎたのか。
「ホントだトトリ。星はやっぱり綺麗だね!」
夜空一面の星は確かに綺麗だ。
三脚を立てて望遠鏡を覗き、ピントを合わせるトトリ。ボクはこの時の彼女を見るのが好きだ。
今夜の観測はこの場所に決まったらしい。
彼女と過ごすようになってから自然に触れる機会が増えた。
人工的な物に囲まれた環境で生活をしていたボクには良いこと。
これでトトリまでものにできたら最高だね!
「やっぱり男の人が居るといいね。夜でも安心して外で星が見れて…」
あ、エメットくんを使わせたみたいな言い方だったかな?なんて申し訳なさそうにトトリは呟く。
「なにいってるのさ!ボクも息抜き出来るからむしろ感謝してるよ?」
それにトトリと一緒に居られるし?
まあこんなこと言ってもトトリは聞き流しちゃうから言わないでおこう。

警戒心が人一倍強いトトリ。
と、浮わつきっぱなしのボクが男女二人で夜中に出歩く此処までの関係を作るだけでも普段の倍以上苦労した(このボクが!このボクが!)
だから今の関係をボクからはあんまり崩したくない。普通の女の子とは扱いが全然違う。
トトリは露骨な好意を持って接触すると逃げてしまう。
彼女と初めて会った時は気にも止まらなくて。ぶっちゃけると地味でツマンナそうな女だなあって…うん、昔のボクを殴り飛ばしたいね。
でも今はね、本気で惚れちゃってるんだから人生って何があるかわかんないよね。
「そう?なら良かった。エメットくんこういうの積極的に見に行くイメージ無いから迷惑かなって思ってたんだけど」
「トトリのおかげで好きになったよ。星を見たり、緑に触れたり、」

ボクに大切なことを教えてくれた人。
純粋な人。
しっかり根を下ろして、ボクみたいにふわふわしてない。
キミって凄く安心する。

「…とても素敵だ」
「っあ、…エメットくん」
「トトリ?」
「いや、なんでもないの…ただ…」
嬉しいな。
トトリがボクを意識してくれるなんて。頬が赤いキミを見てるとちょっと、いやかなりヤバいかも。
光害の無い静かな夜。
ナニモシナイボクって紳士。