硝子の心
砕けやすくて、だけれど綺麗な。
「珍しいですね、貴方から来てくれるなんて」
「分かっているはずだ」
普段なら絶対に来ないであろう客人を笑いながら出迎えるのだが、気に食わぬ顔をされてしまう。
理由は分かっている。大友の笑みはどうも相手を馬鹿にしているみたいで、大抵ふざけていると思われるのだ。
勿論、そんなつもりは全くもってないのだが。
「……分かりません」
「輸入のことだ」
やっぱり、と心で呆れてしまう。
毛利が理由なしでわざわざ九州のこの地に来るわけがない。
―――前は制圧で来たけれど。
だから大友にとって毛利が来ることは嬉しいことでもあるが、面倒事を手土産に持ってくるからあまりいい気はしないのだ。
「輸入?僕はあまり関わらない主義なので分かりませんね」
「……」
いい加減堪忍袋の緒が切れかけている毛利に、溜め息混じりに大友は無言で頷く。
無論知っていることだ。何せ自分から提案したことなのだから。
「硝石のことですよね、来た理由」
「どうやら本気で対立したいみたいだな」
「あれ、既に対立してると思ってましたけど」
硝石とは火薬の原料の一部で、戦略を左右してもいいと言ってもおかしくないほど大事なものだ。
だけれどそれは日ノ本では採れないもので、大友が最も尊敬するザビーの出身の南蛮から輸入していた。
それは毛利にとって不都合なことで、だからここに来たのだろう。
相手の逆手にとるような言動は大友の短所なのだが、直そうとは思わないしそう思ったこともない。
だから、例え親密になろうとしても毛利の機嫌を悪くするだけであった。
「……」
「サンデー。何だったら輸入を考えてもいいですよ」
自分から毛利に輸入させないようにしたのだから、大友のその言葉に毛利は先程から崩さない無表情に少しだけ驚の色を見せる。
―――そんなものに興味はない。ただ彼と一緒にいたいだけ。
とてもじゃないが、正当なものでない理由なのだが、大友にとってはそれだけのためにわざわざ部下を遠くに行かせ、面倒なことをしてきたのだ。
それは恐らく硝石――硝子のように透き通った純粋な想いのせいだろう。
「貴方のための、話ですよ」
それがどんなに理不尽であっても、例え自分の身が危うくなっても壊れない心《想い》―――
だけれどそれは目の前の想い人の言葉で簡単に崩れてしまう心《想い》。
「――聞かせろ」
そんな硝子の心でも、貴方のためなら崩れても構わない。
Fin.
11.10/06
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