空に届け | ナノ

空に届け




夢を見た。
夢を見るのはいたって普通だ。
だけれど、その夢に知っているけど知らない人が出てきたらどうだろう。


長曽我部はいつもの左目を隠す眼帯をしてなくて、見たことのない服を着ていた。
―――いや、正確には顔など見ていない。
ずっと後ろ姿しか見えないのだ。
改めて感じさせる大きな背中しか見えず、なのに彼の表情が不思議とわかった。


『……で、あと…で、』


何度も同じことを呟く彼に聞いてみたい。
―――どうして自分の夢に出てくるのか。
昔の人達は、夢に出てくる人がその夢を見ている人のことを忘れかけていると思っていて、その都度その相手に唄を送っていたらしい。
そう考えると、何故か夢でも会えたというのに悲しくなってしまう。

だから、相手に尋ねようとする。
なのに、何故か毛利の口から出るのは音ではなくて、泡。
まるで水の中にいるみたいに、口からは泡しかでない。
長曽我部に言葉を伝えられない辛さを感じながらも、これは夢なのだと自分に言い聞かせる。


『あ……こし、…』


―――何を言って、


頭にずっと響くその声に、心が痛む。
その言葉を知りたいのだが、知ってはいけないと心のどこかで警告音が鳴る。
でも、知りたいという気持ちは押さえきれずに、相手に近づく。
歩いた感覚は全くなくて、ただその背中が近付いて毛利のすぐ目の前にまで傍にくる。


『あと、……で』


―――我に教えてくれ、


成り立たない言葉のやり取り。
だけれど、長曽我部はゆっくりとこちらに振り向く。
その表情はとても悲しく、だけれどとても嬉しそうだった。


―――駄目だ、聞いては。


警告音が大きく響く。
だけれど、すでに遅くて長曽我部は口を開く。



『あと…少しで、会える』



パァン…、


その言葉と同時に長曽我部は泡のように消えてしまった。
あまりにも綺麗に、あっさりと消えてしまうものだから、今いたことが嘘だったのではないかと疑ってしまう。




―――もしかしたら、




此処は夢ではないのかもしれない。
そう、夢ではない。
今ようやく思い出した。自分の居場所を。



―――早いな、来るのが。



きっともうすぐ彼はこっちに来るのだ。
それは嬉しいけど、とても悲しいこと。
だけれど、悲しんでもしょうがないことは此処に来てから何度も学んだ。



―――待ってるぞ、



こんな水の中みたいな世界はきっと嫌かもしれない。
けれど、上を見ればずっと青い空が自分達を覆ってくれる。
きっと長曽我部はあの空から来るのだろう。それなら、自分は音が出せなくてもこの泡だけでもいいから、この気持ちをずっと叫び続ける。




空に届け、この気持ち。



Fin.

11.10/03





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