スピア
人生は舞台だ。
自分自身が主役になり、演技も演出、台本も全てが自分で作る“劇”だ。
「――異議はねぇな?」
「ない、――とでも言うと思ったかっ!」
なんだよ、と面倒臭そうに答える伊達にいらいらが余計増して、二人の間の温度が急激に下がる。
ばん、と毛利が机を思いきり叩く音は教室中に響き渡り、一気に注目の的になる。
休み時間だから少し人が少ないのだが、ほとんどの生徒は意外な組合せを不思議そうに見ている。
「なんだ、あんのか」
「あるに決まってる」
周りの視線など眼中になく、目の前の男の左目を睨む。
すると、すっ…と腕をあげるものだから、警戒する。
が、自分の想像していたことはしないで、そのまま人差し指をぴんとまっすぐ立てて自分に向ける。
「……一ヶ月間、弁当作ってやる」
「………は?」
「あと、帰りも一緒に帰ってやる」
「貴様、我を愚弄して、」
少しずつ増す怒りをぶつけようと怒鳴るのだが、相手の先程の人差し指が下唇にとんと触れられて黙ってしまう。
さらに、人差し指と逆の手で服の袖を捕まれる。
ぐい…っ、
「――俺じゃ嫌か、……princes?」
「〜〜っ…!!」
一気に縮まる距離に戸惑うなか、耳元で囁かれた言葉に言いたい言葉を失う。
少し上を向けば、にやりと笑う相手の顔がすぐ側にあって、もう少し近付けばその整った顔に触れられるのではないかと思えるほどだ。
だけど、
「離れろっ!!」
「うおっ!?」
先程机を叩いたときと同じくらい強く相手を突き飛ばす。
そうすれば案の上距離が離れて、相手は自分の机にぶつかってしまう。
だけどそれは彼が悪いのだから、心配などせずただ冷たい目で睨む。
すると周りが自分達のことをずっと見ていることに気付く。だからもうすぐ終わる休み時間だけれどこの場に居づらくて、相手から視線を逸らして扉へと歩きだす。
「なっ、毛利!」
「……考えといてやる」
それだけ言って、逃げるようにして教室から出る。
廊下を平然と歩くが、それでも一部始終を目撃していた生徒達の視線がとても痛い。
―――何をいっているんだ自分は。
今更自分の言葉に後悔する。
だけれど、時はもどることが出来ないのでどうしようもない。それでも後悔にせずにはいられないのだ。
「我のほうが愚か、か…」
「あー、いてぇ…」
机にぶつけた右腕が痛い。
当たり方からしてきっと痣が出来ているだろうそこを撫でながら、放課後会う保護者的存在な片倉になにか言われるだろうと頭を悩ます。
理由を言うにも言えないことだし、かといって言ったら怒られるに決まっているからだ。
「あの返事は期待していいってことだよな…」
机を直しながらぶつぶつ呟く。
周りの視線が集まっているが、気にしないでなにもなかったかのように席に座る。
そして、先程言った自分の言葉を思い出す。
『俺の傍にいねぇか?』
彼の横顔を見たときにふと思ったことを素直に言葉にしただけ。
今思えばなんという大胆なことを言っているんだろう、と言える自分がいるのだがあのときは余裕がなかったのだからしょうがない―――と言い訳がしたい。
「――as spear」
噂通りの棘の鋭さ。
だけれど、その中心には綺麗な華がある。
華も綺麗だけれど、自分はその棘に惹かれてしまったのだ。
それに触れて怪我をしてしまっても構わない。既に怪我をしてしまっているのだから。
―――人生は舞台だ。
どこかの誰かが言った言葉。
それが悲劇であろうと、喜劇であろうと、
自分が主人公なら、思い通りにするまで。
まるでスピア《棘》のような彼と一緒のエンドを。
Fin.
11.10/01
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