変化 | ナノ
変化





彼を見つけるのはとても簡単。


「安国」


いつもそばにいるから、呼び慣れた字を声にすれば振り返ってくれる。
それが当たり前すぎて、しばしば地方に出かけて会えない数ヶ月のあの虚しさは異常に思える程だった。


「安国」


この言葉が好きだ。
呼ぶだけなのに不思議と心が暖かくなる。ただ、無意味に呼び続けるといつも拗ねてしまう。その表情を見ると暖かいとは程遠く、胸の奥が熱くなる。


「なんだ、張苞」


あぁ、いつも字で呼んでくれない。
俺は−−−、そう呼んで欲しいだけなのに。
義兄弟の契りを結んでも、その呼び合いだけは変わらなかった。


「いや、呼んだだけだ」


無理に笑った。本音を知られたくなかった。
そうしてほしいから、そうする。と、今の呼び合いを自分の願望だけのせいで変えたくなかった。もし変えてくれるのなら、安国が安国自身で思いついて呼び方を変えて欲しいのだ。


「……行くぞ」


背を向ける彼に言いたい。
ただ、一言。この一言で全て変わってしまう。
変わってしまうのは怖い。だから、何も言えずに隣に居続ける。






−−−好きなんだぜ?


心で幾度も繰り返したこの告白を。


fin.

13.01/17





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