裏とオモテと裏返し | ナノ
裏とオモテと裏返し




目を閉じる。
別に対した理由はない。ただ単に風を感じたかった、といえば違うわけでもない。
頬を掠める柔らかい風は、心地よい温もりも乗せて、周瑜を包み込んでくれるような気がした。
するとふわり、と風とは違う形のあるものが頬に触れる。擽ったくて目を開ければ、クスクスと一回り歳の離れた無邪気な笑顔がすぐ近くにあった。


「無防備ですよ。いつもはあんなに切羽詰まっているのに」

「君がいるから。…とでも言えば満足か、陸遜?」


もう仕事には追われていない。その開放感からか、周瑜は少し余裕があり冗談を言ってみせる。
陸遜は勿論と満足げに、周瑜の左手の指を自分のと絡める。二人の指が交差してゆっくりと温度を共有する。血が通ってないのでは、と思ってしまうような周瑜の白い指をなぞってみる。するとピクリと小さく反応するものだから、その仕草までも愛しいなどと思うと、陸遜は自分はどうかしていると自嘲した。


「無理をしないでください。だって…」


ーーー私は貴方の事が好きなんです。
続きの言葉はなかなか言えなかった。普段周瑜を困らせてしまうほど、好きと言っているはずなのに。いざ改めて言おうとすると、小恥ずかしいものだった。
自分はまだ未熟だ。恋愛などした事もないし、どうすればいいのか分からない。ましてや同姓の、自分の上司である。

だから陸遜はどうすればいいのか全く分からないまま、ここまできてしまった。


「…分かってる。もう、離れない」


甘い風が運んでくれたのは意外な言葉だった。
先程と同じように冗談なのかもしれない。けれど、やはり好きという感情が自分のいいように捉えてしまう。
周瑜は陸遜の誘いを受けてくれていたが、自分から好意を寄せるような言葉は一度も口にはしなかった。ずっと陸遜の行動に振り回されて困った顔ばかりしていたので、いつ自分の事を嫌いになるのか怖かった。


「……本当ですか?本当にもう、離れないと…?」

「そんなに何度も言わないでくれ」


私の気持ちが変わってしまうぞ?と付け足せば、身体中を抱きしめられる。ちくりと腹部が痛むのを感じながら、けれど身体を包む温もりをしっかりと受け入れる。
普段は真面目な性分なのだが、まだまだ子どもなのだと少し笑ってしまう。すると、ずっと感じていた左手の温もりが急に消えてしまう。


「約束ですよ?」


左手の人差し指に、小さな緑色の詰草で作られた指輪を通される。
唖々、やはり子どもっぽい。と思っていると詰草の上から口付けをされる。
今までずっと好きと言われ続けてきたが、接吻はまだ一度もなかった。唇でないにしても、目尻が熱くなるには十分だった。


「あぁ、約束だ」


詰草の花言葉、約束。
それを頭の中で思い出しながら、周瑜は陸遜の首筋に顔を埋める。
仄かに甘くて懐かしい嗅ぎ慣れた匂いが鼻腔を擽り、ゆっくりと瞼を閉じる。

視界はぼやけてしまっている。そのせいで何もはっきりと見えない。見えない。見えないーーー。
そして、そのまま目の前が真っ暗になった。






よっつの葉の詰草。
約束と、幸運。



反、




「あぁ、…貴方にはやはり赤が似合う」



復讐と、独占欲。



最期に見た夢は、どちらの夢か分からないまま。
亡き親友の香を纏って、腹部に赤い花を咲かせた。



fin.

12.10/15





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