今孔明的攻略戦術 | ナノ
今孔明的攻略戦術




季節は分からない。
けれど一つに結わえている髪を仄かに揺らす風は心地よいことから、きっといつもの呉に帰れば梅の花が赤で空を埋めつくすほどに美しく咲いている季節だろう。
しかしそれはいつものことであって、今の崩壊しかけている世界では叶わないことだ。
そのはずなのに、親友は半場強制的に狩りや旅に行こうと陣地から引っ張り出したり、敵である軍師達は策の出し合いをして子どものような喧嘩をしているものだから不思議と切羽詰まることはなかった。


「ね、周瑜さん。どう?」





仕事面でも同じで、人は多かれどその分仕事をサボる者も出てくるため、周瑜はそれらを引き受ける役を買ったわけではないが、何故か最終的にはここに流れ着いてしまう。そのため尋常ではないほどの書簡や、廃れかけている都市の復興の仕事をするはめになってしまった。
が、半兵衛がそんな周瑜の仕事を一緒に減らしてくれたおかげで少しずつ仕事の量は減っていった。

すると今日、突然半兵衛が行きたいところがあると周瑜にこっそりと提案した。
本来なら仕事があるからと断っていたかもしれない。しかし仲が良い半兵衛の提案を断るわけにもいかず、むしろその提案を嬉しく思う自分もいた。
答えを出すのはあっという間で、周瑜達は周りにはほとんど内緒で陣地から抜け出した。実は抜け出した間、陸遜や姜維が膨大な量の仕事を少しでも減らそうと取りかかっていることは、それをお願いした半兵衛しか知らないのだが。





「素晴らしいな」

「でしょ?前散歩してたら偶然見つけてさ」


本当は偶然見つけたわけではない、わざわざ兵の数人を使ってる探し出させたのだ。
そんなことも知らない周瑜は久しぶりの少憩であるためか、ふぅと溜息を洩らす。こんな無防備な彼を見たのは初めてだった。そして、髪を濡らさないために一つに結わえている髪の合間から見える首筋、耳、横顔…全てがまるで女性のように美しく見えた。


「ね、周瑜さん。孫策殿とはどんな関係?」

「なっ…!?」


ずっと聞きたかったことを聞けば、湯気越しでも驚いた表情を見ることが出来た。
湯のせいか、はたまた羞恥からか、普段の雪のような肌は紅く紅潮している。
しかし、驚いているようだがいまいち何かがピンとこない周瑜の様子に、半兵衛は言葉を続ける。


「あ、もしかして聞き慣れてる質問?」

「…まぁな。何度も聞いても心臓に悪い内容だ」

「ははぁ〜、さては孫策殿が調子に乗って誇張したりするでしょ?」


どうやら全てが合っているようで、周瑜は複雑そうな表情から見慣れた微笑へと戻す。君には敵わないなと微笑むその表情が、半兵衛の心を揺さぶるのには十分であった。
きっと心の中では半兵衛のことを蜀の丞相のようだと思っているかもしれないが、これ以上追求するのはやめた。


「…よかった。これなら言えるよ」


ぽつりと呟いた言葉は、水の落ちる音に掻き消される。ふわりと広がるその波紋がまるで自分の命のようにあっという間で儚いもののように見えて、より心の中で焦ってしまう。
これも全部策略。だけど心が、焦っているせいですぐにばれてしまうような脆い策。急がなくては、早くしなければと急かす自分が全て策をダメにしてしまっているのだ。


「周瑜さん」


だけれど、もう我慢できない。今孔明なんて素晴らしい名前があっても、恋の兵法は皆無ですぐ焦ってしまう。
これだけは偽りのない言葉だから、半兵衛はいつもの作り笑いをやめて口を開く。


「実は好きなんだよね」


唖々、熱い。
熱すぎて溶けてしまいそう。
本当は彼を溶かし尽くしたいのにね。


Fin.

12.08/21





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