過剰気味恋愛 | ナノ
過剰気味恋愛






謹賀新年。
そんな特別な日に相応しいほどの天候に逆に三成は目を細めてしまう。
息を吐けば水蒸気が白く曇り、手も頬も冷たさで赤くなる。炬燵が愛おしく感じてしまうこの寒さはまさに正月らしい。
昨年の師走は例年に比べ、比較的温暖だった。けれど、新年を迎えると昨日の暖かさが嘘だったかのように寒さが増したのだ。


「三成、お前のその表情どうにかならないか?」

「黙れ、これが私の元々の顔だ」

「いつもより苛立っているように見えるぞ」

「そうか。きっと貴様が隣にいるからだろう」


いつもならあまり言わない皮肉混じりに言えば、家康はそんなこと言うなよと笑いながら答えるものだから調子が狂う。
そして一番気になる家康の服装を見て、自分でも分かるほど嫌そうな表情をする。


「……寒くないのか」

「なんだ、心配してくれてるのか」

「違うッッ!!」


思わず過剰に反応してしまう。しまったと思うが既に遅く、目の前の家康の表情はそんな三成の反応を見て徐々に笑顔からにやついていく。
昔からそうだ。嘘がつけず素直なまま表に出してしまう三成は、図星になるとすぐに過剰に反応してしまう。
それは昔からの付き合いである家康もよく知っていることで、だからいつも家康に弄られてしまうのだ。


「嬉しいな」

「勘違いするなッ」


いちいち口から出てくる言葉が言い訳の言葉で、それが更に真であることを強調させてしまう。
それでも家康は本当に嬉しそうに、うんうんと言うものだから、そんなことは気にせず頭に浮かぶ言い訳を口に出す。
それでより家康が調子に乗ってしまうのだが。


「今日だってしょうがなく、だ!」


正月に家康と一緒にいるのは、三成が尊敬している豊臣の親友であり軍師でもある竹中に、折角だから羽をのばすついでに初詣に行ったらどうだい、と勧められたからだ。
近くの神社に行き、その帰りなのだが言い争いは始まった。
竹中の心遣いは虚しく、羽を伸ばすどころかいつもの通り三成は家康に怒鳴る結果になる。


「そもそも貴様は…、」

「おっ、綿あめだぞ!」

「なっ……、待て家康ッッ!!」


そしていつもの通り家康はまともにその咆哮を受けず、色とりどりの屋台の中に消えていく。三成の止める声は賑わう人々の中に掻き消されていき、つい溜め息を漏らしてしまう。
今日は部下も休暇ということで、普段家康の傍にいる本多も例外でなくここにいない。どうやら家康が何度も言い聞かせて、ようやく休暇を得たらしいのだが、三成はそんな本多が少しだけ羨ましかった。
大きくて目立つ本多がいない分、家康をこの人混みの中探すのはとても骨の入ることだと思いながらで、しぶしぶその中へと入っていく。


「家康ッ」

「おぉ、見つかってしまったか」

「貴様…、早く行くぞ」

「ん、ちょっと待て。ほんのちょっと」


人混みの中でも黄色い服の彼は目立ち、案外あっさりと見つかった。
腕を掴んで引っ張るのだが、力の強い家康に勝つことは出来るわけもなく、しょうがなく家康を待つことにした。
すると本当に少し経つと、家康は楽しそうな表情で三成に振り向き、待たせたなと言いながら、今度は三成の腕を掴んで歩きだす。


「うお…っ」

「ほら、帰るんだろ?」

「……」


言葉には出さなかったものの、家康の我儘さについ眉間に皺を寄せる。
しぶしぶ家康についていけば、人混みから徐々に抜け出すことができ、神社のはずれにある松の木の下まで彼は止まることはなかった。
そして立ち止まったかと思うと、家康は急に座り込んで三成を見上げるような形で話しかける。


「その前に、食べるぞ」

「……あの短時間で、よく…」

「屋台のおじさんと仲が良かったからな、貰った」


見せつけるかのように掲げる両手には沢山の食べ物が握られており、驚くよりも先に呆れてしまった。
家康はしばしば城からいなくなったかと思うと城下町や村に出掛けていることが多く、そのため多くの村民との関わりを持っている。
それは彼が両手に持っている多くの食べ物が表していて、三成はそんな家康の人徳が羨ましくも感じた。
ただ村民から見れば家康は孫のような存在で、食べ物を与えているようにも捉えることは出来るが。


「ほら、三成も」


そんなことを思っていると家康にぐいぐい服を引っ張られ、座るように促される。
早く帰らないと、と豊臣の顔が頭に浮かびながら逆に立つように言うのだが、実は人一倍自分の意見を通さないと気が済まない家康に力任せに引っ張られ、すとんと無理矢理座らされる。
勢いよく、更に手で支えることも出来ずに腰を思いきり地面にぶつける。柔らかい土であっても、その痛みに顔が少しだけ歪む。
その表情を見て家康は大丈夫か?と心配そうに聞いてくるが、三成が今まで我慢していたものが一気に爆発する。


「ええいっ!家康っ、貴様は先程から私を苛つかせるなっ!貴様がいなくなったときは――、」

「…いなくなったときは、なんだ?」

「……」


やはり性格や癖というものは簡単に直すことができない。
つい数分前に冒してしまった過ちを再びしでかしてしまい、言い返せる言葉が見つからない。
だが家康はその答えが聞きたいらしく、なんだ?と三成の瞳をじっと見る。
その瞳を見ていると、言いたくなかった言葉も口から出かけて、小さく唇を開きその隙間から心の内を秘めた言葉を洩らす。


「…心配っした、……だけだっ!」


その言葉は家康の思っていたもの通りすぎて、一瞬驚いた表情を見せる。
だがぱぁっと再び笑顔へと戻り、先程と比べ物にならないほどに嬉しそうにする。
それが三成の心を動揺させるには十分で、上手く素直になれない三成はふいっと家康から視線を剃らし、賑わう屋台の方を見る。この二人のいる場所とは違い、笑い声の絶えないそことはまるで別世界とまで思えてしまうほどだ。
だが静かなこの空間に突如笑い声が響き渡る。


「っははは、やっと三成の口から聞けた」

「なッ、五月蝿い!」

「ワシは五月蝿くない。三成のその声のほうが五月蝿いぞ」


ほら、食べようと言い争っていたのもかまわず、右手に持っていた食べ物をつきだす。
食べたくないと思っていたが、今のこの気持ちを誤魔化そうと、その中から林檎飴を受けとる。
紅くてとても綺麗なそれはとても食べれるものとは思えなくて、丸の中に自分を映し出す。紅い林檎のせいで、自分の顔まで赤く見えて、まるで心を全て表しているようだった。


「今日は暖かいな」


その格好で、しかも鼻を赤くしてそう言うものだから、すぐにでも嘘をつくなと言いたくなった。
だが、よくよく考えれば先程から寒くなかった。
きっと過剰に反応して、恥ずかしくて、けれどこの近い距離がそう感じさせてくれないようにしてくれているのだろう。
そう結論を見つけるとなんだか自分が滑稽に思えて、三成は軽く笑って、青い空を見上げる。


「……そうだな」


謹賀新年。
初めて告げた本心は、過剰的なものでとてもみっともないものでした。
けれど、これほど素直に熱くなれるほど言った想いはありません。



今年も、一緒に―――。
と神様にお祈りして。


12.01/03





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