お月様とご一緒に
「おいしいでござるか?」
「…食べたそうだな」
そんなことは、と言いかけるが自分の欲望に嘘はつけない。
あいすくりいむという西洋の甘味は、暑さには弱く、けれど暑い日こそおいしいものらしい。
未知の甘味への好奇心と、漂う甘い香りには敵わない。
「…食べたい」
「そうか」
……、
その言葉のみだけ言う。
そして甘味を口に運ぶ。
ただそれだけ、
「分けてくれぬのかっ!?」
「少なくとも我はやらん」
「ずるいぞっ…」
せっかく言ったのに、やはり毛利はずるい。
自分の、蝶みたいにひらひらと動く心を、全て理解しているように掴み取るのだ。
それに反して、相手の心は雲みたいにぼやけていて理解したと思ったら違っていて、これでは不公平ではないか。
「…今日は十五夜ぞ」
「だから、毛利殿は俺を呼んだのでは」
「あぁ」
まだ明るい空だというのに薄く浮かび上がる月を見ながら手招きをされる。
最初は戸惑ったが、隣に座ればより一層相手から甘い香りがする。
甘味だけではなく、毛利のさらりとした髪の毛の一本一本が、既に秋の涼しさを感じさせる風によって揺れて、更に釘付けになる。
そんな釘付けな相手の整った唇がゆっくりと気だるそうに動き、静かな言葉を紡ぐ。
「やはり月には団子が一番だ。だから真田、早く出せ」
「なら、…あいすくりいむとやらと交換してほしい」
「…これか?」
右手に持っていたそれを見せるように挙げる。
本当にこの人は焦らすのが得意らしく、拗ねながらも頷く。
すると毛利はあっさりと自分の前に甘味を差し出してくるものだから、夢なのではないかと疑ってしまう。
だが、受け取ったときに触れた指は暖かくて、それが現実なのだと分からせてくれる。
「早く食べて団子でも食べようぞ」
「…うむ!!」
先程までと言っていることが違うな、と内心微笑すると同時に、相手のさりげない優しさに触れた気がした。
甘味は、先程まで彼が食べていたせいか棒が暖かくて、上はその暖かさで少し溶けている。
ぱくり、
少し溶けているそれは甘くて、暖かくも冷たい秋の風のようだと思う。
―――いや、それよりもこれをくれた相手に例えたほうがあっているかもしれない。
すると相手がずっとこちらを見ていることに気づく。
まるで先程まで自分がしていたのを真似ているようで、心なしか毛利の今思っていた思っている気持ちがわかる気がする。
「…旨いか?」
珍しく自分からそのようなことを尋ねてくるところをみると、やはり自分が思っていたものは当たりらしい。
だから、その甘くて珍しい素敵な甘味を急いで全て食べきってから答える。
「微妙でござるっ」
「なら、早く団子で口直しするぞ」
「そうだな!」
自然と笑みがこぼれる。
だって一緒に食べれるほど美味しいものはないのだから。
先程毛利は雲みたいと思ったがどうやら違うらしい。
彼は月――届かない、冷たくて、でも暖かい存在。
珍しいものよりも、ありきたりのほうが一緒に食べられるから美味しい。
月と一緒に、いただきます。
Fin.
11.09/12
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