一緒にいればいいってモンじゃない
「あちー…」
「そうだな」
言っても変わらない気温への文句はどうしても言ってしまう。
こんなにも暑いのに、きちんと着物を着ている毛利がおかしく思う。
そして相手の返事はまるで暑いなど本当は思っていないのだと勘違いしてしまうほど、単調でまるで自分を相手にしていないようだ。
「…あちーな」
「あぁ」
「…毛利も暑いか?」
「…」
最終的には返事が返ってこなくなってしまう。
せっかく一緒にいるのに言葉のやり取りが途切れてしまうことが嫌で、なんとか話題を作ろうとする。
しかし、出てくる言葉は暑さに対しての文句ばかりだ。
「あー、あちぃ!!」
「五月蝿いわっ!」
ばん、と毛利が読んでいた書物が頭にぶつかって鈍い痛みが頭に広がる。
馬鹿のように同じ言葉ばかり言うな、と睨みながら言うものだから体が縮こまる。
どうも、怒った毛利には弱くてろくに言い返せないのだ。
けれど今回は違う。
「だったら返事しろよ」
「した」
「感情が込もってねー」
書物ばかり読んで、と文句を言えば相手は何も言わないで、ただ睨むだけだ。
整った顔立ちが喜怒の違いだけで、こうも変わるものなのだなと不思議に思うなか、毛利は静かに口を開く。
「…なら、貴様は何を望む」
「は?」
「我の態度が嫌なら、帰ればよかろう」
これは完全に怒らせたな、と先程の自分を恨む。
まさか、そんな質問をされるとは思っていなかったのでなかなか言葉が思い浮かばない。
だが自分が口を開く前に毛利が呟くように喋る。
「…我は、言葉など必要ない」
その意味はつい自分の好都合にとってしまう。
だって、そんなことを言われたらただ一緒にいるだけで十分と思いたくなるではないか。
いや、きっとそうだ。なにせ相手の綺麗な表情が紅く見えたのだから。
「可愛いとこあんじゃねーか」
「勘違いするな、気色悪い」
あっ、ひでーと苦笑混じりに答える。
そして自分も自然と先程の質問の答えが浮かび上がってきたので、目の前の相手に答えを言う。
「同じ感情を一緒に分かち合いてーんだよ。だから言葉が欲しいんだ」
そう言えば、相手も「できたらな」と素直じゃない言葉を言うものだから、お仕置きとばかりに額にキスをする。
身長差があるから、毛利は睨むのだが上目遣いのようになっている。
しかも、さっきと違う照れのようなものを含んだ視線で睨むものだから、相手の感情がいまいちわからない。
「…言葉だけで十分だろ」
「俺ぁ言葉下手なんだよ」
「…そんなの、我もだ」
嘘つけと、思ってしまう。
あんなにも一つひとつの言葉に、自分は戸惑ってしまうのだから。
「だったら、行動でしめすか?」
「先程の言葉を早速破るか」
冗談だよ、
その言葉の代わりに唇にキスをする。
唇を離してから、言葉と行動が全く逆ではないかと気付き笑ってしまう。
「一方的だな」
一方的?なら、あんたも言ってくれ。
好きって。
同じ感情を共有してるって思いたいのだから。
それとも、行動で表現してくれる―――?
いつでも待ってるから、
ただ一緒にいるだけじゃ足りない。
fin.
11.09/12
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