飼育メカ
嫌いな奴とちゅーしてしまった。
その事実は当事者である左右田和一を一週間ひきこもらせるほどの威力を持っていた。
事故的なものなんだからノーカウントだ。なんて慰めも通用しなかった。
「もう外に出れねぇ…」
さすがにこれはヤバイと思った日向が様子を見に行って最初の言葉がこれだった。
「そんなこと言うなよ…もう一人の当事者が泣くぞ?」
「むしろなんであいつはあんなに落ち着いてんだよ?!」
あいつだって俺のこと嫌いなはずだぞ!と叫ぶ左右田を落ち着かせながらもう一人の当事者、田中眼蛇夢のことを思い出す日向。
まず何故田中と左右田が事故とは言えキスすることになったのか。答えは簡単。
暴れ始めた終里を止めるために弐大が相手を始め、
更にそれを止めるためにと澪田と小泉が立ち上がり、
不幸なことに狛枝がそこに倒れこんできて小泉までよろけ、
それを受け止めようとした左右田が衝撃に耐え切れず、
ヤバイ床とキスしてしまう、と思いつつ目を閉じたら何故かそこに田中が倒れていたのだ。
そんな不幸が重なって左右田と田中がキスしてしまったのであった。
「田中は気にしてないって言ってたんだし、お前もいい加減機嫌直せよ」
「そこが問題なんだろぉが!!」
「問題って、何が問題なんだよ?」
「だーっ!ソウルフレンドのお前なら分かるだろ!」
「いやぁお前が田中を嫌ってるのは分かるけど…」
「それだけじゃねえんだよ。情けねえ話しだけどよ、あれ以降田中のこと思い出すだけで顔熱くなるし、田中の顔まともに見れねえし」
「……は?」
「しかもなんでか知らねえけどよぉ、心拍数もあがってるみてーなんだよな」
「左右田…お前それさ…」
「?なんだよ」
「…田中のこと、好きになったとかそういうことじゃないのか?」
部屋の中に沈黙が降りる。
しばらく固まっていた左右田が動き出したと思ったら
うぇ、え、え、と顔を赤くして右往左往しだした。
「べ、別に田中のことが好きになったとかそういうわけじゃn」
ねぇよ。と締めくくろうとした言葉は左右田の部屋のドアが勢い良く開けられる音で遮られた。
何事かとそちらを振り向けば、田中がいつものポーズで仁王立ちしていた。
「た、たたたた田中?!てめぇいつの間に?!」
「フハハハハ!話は聞かせてもらったぞ!」
「盗み聞きしてんじゃねえよ!!」
どうやら部屋の前で盗み聞きしていたらしい田中は日向の方へ顔を向けると、
「特異点よ、よくやった。あとはこの制圧せし氷の覇王たる俺様がなんとかしよう。」
と告げた。2人きりにしろという意味合いだと理解した日向は大人しく帰ることにした。
「じゃあ左右田、俺帰るな」
「薄情者オオオオオオオオ!」
ギャンギャンわめく左右田と高笑いしている田中の二人をおいて日向は自分の部屋に帰るのであった。
ソウルフレンドの日向が無情にも自分を放って帰ってしまったため、部屋に田中と二人きりという状況が出来上がってしまっていた。
(うわぁどうすんだよこれ田中の野郎何考えてんだよ怖ぇよ)
内心冷や汗をダラダラかきながら固まっていたら田中が話し始めた。
「…雑種よ。貴様が不幸な偶然とはいえこの俺様と魔のくちづけをしてしまったことを後悔しているならば謝ろう。……ごめんなさい」
田中からの謝罪に驚く左右田。彼は田中も俺とキスしてショックだったろうなとかそんなことを思っていたのだ。
「いや…いきなり謝られてもよ…」
「しかし、貴様が部屋から出てこないのはその一件があったからであろう?」
「確かにそうかもしれねえけどお前が気にすることじゃねえだろ」
というか俺の話盗み聞きしてたんじゃねえのかよ。と問いかけると田中は明後日の方向を向きながら
「この俺様の結界内にてそのような会話が聞こえただけだ」
等と言い訳してきた。
「いや盗み聞きじゃねえか!」
「だから結界内で聞いただけだと言っているだろう!」
このままじゃ埒が明かない。そう判断した左右田は手っ取り早く行動に出ることにした。半ばやけくそ、というかかなりやけくそ気味に田中のシャツを掴み自分の方へ寄せる。
「おい貴様何をすr」
騒ぎ出した田中を黙らせるかのようにその唇に己の唇をくっつけてやった。
いわゆるキス。しかも今度は自分から意図的にだ。
「別にお前とキスしちまったのは事故なんだし嫌でも何でもなかったんだから気にすんなバーカ!」
分かったらとっとと帰れとドアの外に田中を追い出す。
「な、貴様ちょっと待て」
「誰が待つか!」
こんな感じのやり取りをしたあとドアを乱暴にしめ、しゃがみ込む。
「うあああああ何してんだ俺…!」
自分のやったことに今更後悔しながら明日からは真面目に学校行こう。と顔を赤らめながらも決意する左右田であった。
ちなみに田中はドアの前で10分ほど固まってたとか固まってなかったとか。
『事故から始まる何かも意外と素敵だと思うんだ』
(あの雑種は何を考えて…!)