創作30 | ナノ









「っ、ぁ……シズ、ちゃ……ぅあ……」

ギシリ、とベッドが軋む音だけがやけにリアルだ。
馬鹿みたいに暑い部屋。当たり前のように染みついた煙草の香りに、この部屋の持ち主を連想する。俺が知るこの男は、大抵怒るか怒鳴るか、まぁどっちも似たようなものだし、その原因が俺である自覚は大いにある。

ポタリ、

俺を組み敷く男の前髪から零れた汗が、苦しさに細めていた目に入る。
思わず目を瞑れば、それを許さないとばかりに男の舌が眼球を嬲っていく。

「臨也」

こんな声を出す男を、俺は知らない。

「臨也、臨也…」

縋るように、泣きそうな顔で俺の首を締める男は一体誰なのだろう。
思考は酸素を浪費する。限界を迎え、白濁していく意識の中、縋るように手を伸ばした。

目の前の男にではない。
俺が知る、いつもの彼に。

絶対に俺を好きだなんて言わない、世界で唯一愛せないバケモノへ。

「好きだ…好き、なんだ……」

本気を出せば、俺の首をなんて簡単に折る事が出来るバケモノは、
首から手を離し、思い切り抱きしめてきた。

ヒュウ、と喉が鳴る。
抱き殺されるのだろうかと考えて、ならば言ってやろうと笑みを浮かべた。

「俺はね、シズちゃん。君が嫌い。一番嫌いだ」

シズちゃんの瞳に映った俺は、とても幸せそうに微笑んでいた。
こんな顔が出来たのか俺は。まるで恋に現を抜かす愚か者だ。

幸せで、幸せで仕方がない。
グッとシズちゃんの腕に力が込められる。

痛みはなかった。
そして、彼がもたらすものならば、痛みですら俺は愛せただろう。







狂えない声帯
(嘘しか言えない。本当の事は、言わないでいいんだ)




本当は両想い。







title by 月にユダ





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