「っ、ぁ……シズ、ちゃ……ぅあ……」
ギシリ、とベッドが軋む音だけがやけにリアルだ。
馬鹿みたいに暑い部屋。当たり前のように染みついた煙草の香りに、この部屋の持ち主を連想する。俺が知るこの男は、大抵怒るか怒鳴るか、まぁどっちも似たようなものだし、その原因が俺である自覚は大いにある。
ポタリ、
俺を組み敷く男の前髪から零れた汗が、苦しさに細めていた目に入る。
思わず目を瞑れば、それを許さないとばかりに男の舌が眼球を嬲っていく。
「臨也」
こんな声を出す男を、俺は知らない。
「臨也、臨也…」
縋るように、泣きそうな顔で俺の首を締める男は一体誰なのだろう。
思考は酸素を浪費する。限界を迎え、白濁していく意識の中、縋るように手を伸ばした。
目の前の男にではない。
俺が知る、いつもの彼に。
絶対に俺を好きだなんて言わない、世界で唯一愛せないバケモノへ。
「好きだ…好き、なんだ……」
本気を出せば、俺の首をなんて簡単に折る事が出来るバケモノは、
首から手を離し、思い切り抱きしめてきた。
ヒュウ、と喉が鳴る。
抱き殺されるのだろうかと考えて、ならば言ってやろうと笑みを浮かべた。
「俺はね、シズちゃん。君が嫌い。一番嫌いだ」
シズちゃんの瞳に映った俺は、とても幸せそうに微笑んでいた。
こんな顔が出来たのか俺は。まるで恋に現を抜かす愚か者だ。
幸せで、幸せで仕方がない。
グッとシズちゃんの腕に力が込められる。
痛みはなかった。
そして、彼がもたらすものならば、痛みですら俺は愛せただろう。
狂えない声帯
(嘘しか言えない。本当の事は、言わないでいいんだ)
本当は両想い。
title by
月にユダ