創作30 | ナノ





池袋はいつも人が多い。
混雑する街を、急ぐわけでもなく歩いていく。

どこか浮かれ気味のその足取りは、とても軽い。
交差点で立ち止まると同時に、弄んでいた携帯をコツンと その長い指で叩いてみせた。

馬鹿みたいに丁寧に書かれた掲示板の書き込み。
ずいぶんと前にダラーズの掲示板に書き込まれた、宿敵の言葉。

インターネットという顔が見えない空間で、虚勢を張るのが大多数だろうに
彼は違う。謙虚に、丁寧に。今時を逆光したノリの悪さと堅物っぷり。

「バカだなぁ、シズちゃんは」

くつくつと笑うと、横に居た女性が怪訝そうにこちらを向くがニコリと笑って見せれば、サっと顔を背けるのがまた面白い。顔が赤らむという可愛らしさではなく、近づいてはならないと警戒する動物的本能からの行動が、人間らしくてとても良いと臨也は思う。

危険には近づかず
甘い蜜はリスクなく我が物にしたくて

強者には媚び、弱者は見下し、時に攻撃する

そんな動物が、世界で一番だと威張るこの世の中が臨也は好きだ。
愚かしくも愛しい人間が好きで、好きでたまらない。

そういうスタンスをとっていなければ、自分は人と関わる事が出来ない。
自覚は重要だが、それを口外する必要はどこにもない。

自分だけが知っていれば良い事だ。
この感情を見通す人間など、必要がない。





『…確かに、俺は一人だ。だけど、テメェもそうなんじゃねぇのかよ』

化物と罵る臨也に、返された一つの言葉。
いつこの言葉を投げられたのか、臨也はもう覚えてはいない。

ただ、この言葉の後には一つの暴力もなく
静かに去っていく後ろ姿があった事だけは、鮮明に覚えている。

まるで人間みたいに傷付いた化物が、とても遠く思えた事も。





「…………ちっ…」

舌打ちを一つ零し、とっくに青く変わっていた信号を渡る事なく踵を返す。
気分が、乗らない。今日の予定は、そこまで重要でもない。

来た時と変わらぬ足取りで来た道を戻る。
人混みが今は、少しだけ煩わしい。

「全くーー分かった顔で、化物の君と俺を、一緒にしないで欲しいよねぇ」

視線の先には、宙を舞う自動販売機。
何も気にする事なく、己の鬱憤を晴らす為だけの単純な暴力。

自分にはこんな特別な力もなければ、世界有数の頭脳を有しているわけでもない。ごくごく、普通の人間だ。

化物に同列として扱われるなんて、冗談ではない。

「だから俺は、君の事が大嫌いだよ」

頭で考えている事が、段々と心に押されていく。
ヒトも、バケモノも、愛も、孤独もどうでもいい。

今は、心が叫ぶままに逃げなくては ただ死ぬだけだ。


この高揚に身を任せる時
それだけは、少しだけ好きだと気付かないふりをして




愛になる日を夢みてる
(知らない何かを、手にしようと)





end





sousaku30 no4,





title by 確かに恋だった






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