創作30 | ナノ




エアコンの室外機が立てる音と、それから微かな吐息が聞こえてくる。
煙草の灰を落とす事が、今この時間を壊すようで 一瞬、躊躇われた。

しかし、落ちる前に行動に移さねばならない。
いつだってそうだ。時間は決して止まる事がなく、心地良さすら感じているこの空間ですら、必ず終わる。 預言者を気取るつもりはなかったが、それは決めれらた事でしかないのだから。

灰皿に煙草を押し付けても、吐息が途絶える事はなかった。
ただ、その事に安堵する。


「臨也」

名前を呼んで、髪に触れる。
脱色で痛んだ自分のそれとは違い、絹のような手触りが心地良かった。

深く、深く眠るその様を見ながら 髪に触れる。

この感情を静雄は知らない。また、知らなくてもいいと思っていた。
自分達の間には、本来このような感情が 存在するわけが、ないのだから。

新しい煙草に火をつけ、肺まで深く呼吸をする。
この苦味を伴う安堵こそ、慣れきった心の平穏。

優しいだけの安らぎも、心地良さも、ーー愛しさも、全てが遠い。
そう、知らずとも良いと思いながら、静雄はもう己の感情に答えを出しているのだ。

愛しい。愛している。

「…臨也」

名前を呼ぶ度に、感情はどんどんと増していく。
愛している、愛している、愛している。

「………臨也」

自分は、この男を、愛しているのだ。


「……うっ………しず、ちゃん……?」

微睡みから目覚めた瞳が、どこかぼんやりとしながらも静雄を捉える。
それに静雄は微笑みながら、ただただ優しく髪に触れていた手の力を強める。

「いっ…! 何するんっ…あ…!!」

抗議の色を含んだ瞳は、好きではなかった。
自分の感情に波を立てる声も好きではない。苛立った感情のままに髪を掴んで、壁にぶつける。室外機の音をかき消すような轟音と、部屋自体が揺れたような感覚。それを煩わしく感じながら、そういえば、この顔は好きだった事を思い出す。へたり込んでいた男の顎を取り、無理矢理に顔をこちらに向ける。綺麗だった顔は赤く染まり、それでも尚美しかった。しかし、反抗心を隠す事のない瞳はダメだ。気に食わない。静雄はただ、そう思った。

時間は有限だ。
悩んでいる間にも、終わりはどんどんと近づいてくる。

咥えていた煙草を手に持ち、静雄は笑った。
怪訝そうだった顔が、何かを悟り逃げ出そうとするのを空いた手ですんなり止める。


「いいから、俺に愛させろよ」


余計なものは全部いらない。
削って、潰して、壊して、愛す。


終わりは静かに、近づいていた。








愛してる愛してる愛してる
(全てを愛せないから、壊してしまおう)







end





sousaku30 no3,

一度ガチでヤンデレシズちゃんを書いてみようかと…
え、何これ幸せがどこにも無ry





title by 確かに恋だった






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