創作30 | ナノ




鎖が擦れる音だけが響く地下室。
この場所で、どれくらいの時間を過ごしたのだろう。

考えても答えが出ない事と悟りながらも、今は何かを考えていたかった。

(…どうして、こうなった?)

霞がかった思考で考える度 頭が痛む。おそらく、定期的に投与される薬の影響なのだろう。思考を邪魔する鋭い痛みに眉をしかめながら、それでも考える事をやめるわけにはいかなかった。


ここで考える事を止める事が、
逃げる事を諦める事こそが、

一番の誤りだと、自分は知っているのだから。








事の起こりは、数日前の池袋。
もしかしたら数週間前、かもしれないが、出来るだけ良い方に過程しようと数日前、と定義付けた。

取引を終え、厄介な相手に見つからないうちに…なんて考えている時に限って、厄災というものは巡ってくる。

「げっ…」

「あ? …なぁんで、てめぇが池袋に居るんだぁ?なぁ、イザヤくんよぉ!!」

あ、すごい。血管切れそう。
冷静にそんな事を考えながら、臨也の足は逃げる事を、脳は避ける事だけに集中していく。"どっかにシズちゃんの知り合いでも顔出さないかなぁ、そしたらナイフ突きつけて盾にして逃げるのに。あ、無理か。シズちゃん友達いないもんねぇ、俺もだけど" そんな人として割と最低、そしてかなり切ない事を考えながら臨也は踵を返す。

この相手の前では、コンマの迷いが死につながる事など、とっくの昔に理解している。

「まちやがれ!臨也っ!!」


ここまでだった。
臨也が覚えているのは、この光景まで。

そこでプツリと、意識が途絶えた。
宿敵の前で意識を失うなんて自殺行為に他ならない。だというのに、綺麗に、いっそ心地良いくらいに意識は闇に飲まれていったのだと 今になって理解出来る。






これが、数日前に起こった全て。
それから臨也はカビ臭い地下室で、手足を拘束され監禁されている。

食事が出される事はない。定期的に、覆面の男が怪しげな薬を投与しにくる。そんな事が少なくても もう三日は続いている。自分を監禁した相手が誰なのか?怨恨で監禁したならば何故自分をまだ生かすのだろうか?秘密の漏洩が目的ならば 今よりも衰弱し極限状態に追い込んでから拷問をするつもりなのだろうか?

そのどれもがーー

「…面白そうだよねぇ」

にんまりと笑う声に、虚勢は含まれていない。
ただ自分に対して人間が どんな行動に出るのか、それが楽しみで面白い。

くつくつと笑っていると、重苦しい音と共にドアが開いた。

薬の時間なのだろう。
初めは錠剤だったが、一度男が去ってから吐き出した所をカメラで見られたようで、その日から薬は静脈注射へと変更された。
拘束されているからだけではなく、指を動かすのも声を出すのも億劫になるくらいの薬だなんて、中々に危ないものだろう。

臨也はまた、笑う。



「……壊れたか?」

それは、初めて聞く覆面の男の声だった。
淡々と作業をするだけだった男の声ーーそれは、聞き違えるわけのない声の一つであった。

「ーーーーーしず、ちゃん…?」

まさか、
想定すら出来なかった名前を呼べば男はゆっくりと覆面を床へと投げた。くすんだ金髪、見間違える事などない幾度となく見てきた顔の造形。

予想外過ぎて、臨也は上ずった声を出す。
ーーそれでも、尋ねた。

「なん…で、?」

尋ねないわけには、いかなかった。


覆面の男ーー静雄は、笑う。
それは臨也が見たことのない顔だった。

「だって、こうでもしなきゃ俺とテメェは一緒にはいられないだろう?」

暗く、暗く、そして鮮やかに笑いながら。

「ーーこれからは、ずっと一緒だ」

それはまるで、死刑宣告の声のように
逃れられない響きをもっていた。













「…ってのがやりたいんだよね」

にこやかな表情で、手錠、縄、怪しげな薬、そして覆面を差し出した臨也の手を静雄は無言で振り払った。

衝撃に負けて割れたアンプルに向け臨也の悲痛な叫び声が上がるが、とりあえずは完全に無視しよう。

出来たら、永遠に。







end




sousaku30 no.2

お付き合いしてくださったあきらさんに捧げますv
ありがとうございました〜!





title by 確かに恋だった





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