創作30 | ナノ




いつから臨也の事を目で追うようになったのか、静雄は実の所覚えてはいなかった。高校時代、ナイフで切りつけられた出会いの時には、イラつきとうざったさしかなかったと言うのに、自覚のないまま臨也を見る視線に、別のものが足されていった。たまに見せる、不意打ちの可愛さしさを見つけてしまってからというもの、それはどんどん加速していく。

「手前、これジャマじゃねぇのか?」

ひらひらと靡いていたコートの裾を引っ張ると、つんのめって転びそうになる所がマヌケで、思わず笑えば思い切りナイフを突きたてられた。いや、五ミリくれぇしか刺さってねぇし。てか、顔赤ぇし。静雄はますます愉快になってくつくつと笑う。臨也の前で笑うのは、これが初めてかもしれなかった。キョトンとする毒気を抜かれた顔を見ながら、そんな事を考える。なんだコイツ、可愛いとこあるじゃねぇか。そう思ったらもう、ダメだった。

池袋で臨也の姿を見れば、殴りたいより構いたいと思ってしまうし、フードを掴んで「ぐえっ」と零す臨也などを見た日には、夜に思い出して笑う程には好ましく思った。多分、自分は臨也の事が好きなのだろう。殺してやろうと思っていた相手に恋をするのかと呆れたのは初めだけ。臨也が自分を見る視線にも似たようなモノを感じてからは、もうその想いを止めようとは思わないくなっていった。




「シズちゃんあのね、今日はいいもの持ってきたんだ」

ニコニコと笑う臨也は、可愛いかった。
虚ろなまま視線を投げると、目が合ったそれだけで嬉しそうに微笑むので抱きしめたいが、腕は後ろ手に何重にも鎖を巻かれている。

(うざってぇな)

苛立たしい気に眉を寄せれば、勘違いをしたのか臨也の腕が離れていく。そうじゃない。しかし、上手く回らない頭と口に、静雄は更に苛立ちを募らせていく。

「これ、シズちゃんにも刺さる注射器なんだよ?今は嚥下が上手くいってないから薬飲むのも大変だもんね。これからはもっと楽に出来るからね」

安心して。
そう微笑む臨也の顔は綺麗であったが、静雄は臨也が自ら口移しで与えてくるやり方を気に入っていた。ゆるく首を振れば、臨也は困ったように注射器を傾けてくる。

「大丈夫、痛くないよ」

皮膚を破る感覚と、何かが注入される違和感。確かに痛みはないが、物足りなさの方がそれに勝る。

訴えるように臨也を見れば、困ったように、駄々を捏ねる子どもをあやすように頬に、瞼に唇が落とされた。

「……ね?痛くなかったでしょう?」

今まで、そう不便に感じていなかった現状が急速に不満に溢れてくる。
動けない、話せない、でも臨也が毎日静雄だけを見ていると分かる日々。
一度他の男の名が出た時には、思い出せないそれにすらイラついたが、臨也はそれきり一度も他人の名を出さなくなったので静雄は満足していたのだ。それなのに今、キスをしろとすら言えない自分に腹が立つ。

「シズちゃん、どうかしたの…?」

臨也はどこまでも優しく静雄に語りかけてくる。
この部屋に閉じ込められてから、臨也はずっと優しいままだ。

「……………っ……ざや、」

静雄が、名前を呼ぶ。
それは随分と久しぶりで、臨也は顔を綻ばせる。

「うん。なぁに?シズちゃん」

嬉しそうな顔をした臨也が近付き、キスをしてくる。
それだけで満たされた静雄は、回ってきた薬に抗う事なく意識を閉ざす。



「ーーシズちゃん、また明日ね」

冷たい指先と、約束に、心から満足しながら。









壊れてからも優しいまま
(お互いの事だけを想っている)






sousaku30 no.14





title by 確かに恋だった



書き終わった後、ヤンデレテーマなのに、ほのぼの純愛すぎたなぁと言って引かれた思い出があります。





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