白い花が咲き誇る。
美しい場所で笑う日が来るなんて、思っていなかった。
そんな退屈な日常に興味など抱けなかったし、なによりこんなにも満ち足りた気持ちで幸せだと笑える自分を臨也は知らなかったのだ。
「いざや」
幼さを残して臨也を呼ぶ声。
何よりも、愛しい、声。
臨也の腰までしかない背丈の少年は、まだ幼さを残すが 彼の面影は充分に見受けられた。
少年は、全てが”彼”に似ているのだ。
瞳の色も、性格も。髪だって染めて金髪にしている。
「どうしたの、シズちゃん?」
ただ違うのは、出会ったばかりの自分たちには無かった、慈しみを込めて名を呼び合うこと。
少年は、微笑みながら臨也に白詰草で編んだ花冠を差し出してくれる。
この間作り方を教えてみたが、まだまだ下手なそれを、まるで宝物みたいに受け取る臨也は、かつての彼を知る者が見たなら滑稽に映るかもしれない。しかし、構わない。臨也は心からそう思っている。誰にどう思われようが、”彼”から貰った物は宝物。その事実に変わりはないのだから。
「ありがとう、シズちゃん。”大好きだよ”」
臨也の言葉に、少年はビクリと身体を跳ねさせた。
分かりやすい反応に臨也は笑いながら少年に手を伸ばす。
おずおずと座っている臨也の肩に手をかけてくる少年の前で、瞳を閉じた。
「………んっ…」
重なる唇。
記憶の中のそれに比べ、ずいぶんと目立つ拙さに眉根をしかめる。
それでも小さな舌を賢明に動かす様は、ある種健気なのかもしれないが、臨也の心はどんどんと冷めていく。焦れったくなって、主導権を奪い取った。
”彼”がしていたように、呼吸すらままならない深いキス。
逃げようとする事すら許さない。両手で頭を抱え蹂躙していく。
唾液が飲み込めず喉元を伝うのを、惜しむように舐めあげれば少年はビクリと震えた。いくら教えても、ダメだ。他はうまくいったのに、これだけは覚えが悪い。
「………ハァ」
荒い息をつく少年の前でわざとらしくため息をつけば、カタカタと震えはじめる”ソレ”。そろそろ潮時だろうか。いくら時間を費やしても覚えないならば意味がない。
同じでなくてはならないのだ。
見た目も、性格も、行動も。キスも、セックスも。
全てが平和島静雄と同じ”ソレ”が、臨也は欲しい。
オリジナルーーこう言うのは些か語弊があるかもしれないが
臨也が高校で出会い、殺し合いをした平和島静雄は、すでにこの世に居ない。
恋仲であった彼と臨也はとても順調であった。
平穏無事に日々を過ごし、そして深く愛し合った。身体を重ねた回数は数えきれず、甘やかな言葉もいく度となく互いに捧げた。
これ以上ない蜜月。
だから臨也は、静雄を殺した。
いつか他の相手に奪われるかも知れない。
その不安に打ち勝ったとしても、死によって決別されるのは確実だ。
だから、殺した。
それだけの話。
それから臨也は、静雄のクローンをつくる事にした。
永久保存している亡骸の一部を使って、全く同じ”彼”を作り出す事に全力を注いだのだ。
結果は、芳しく無い。
見た目や性格が殆ど相違なく作れても、臨也に触れるやり方、口付けやセックスの仕方まで彼と同じクローンはいまだ作れていない。
今回はキスまで進んだ、珍しい成功例であったが、ため息と共に臨也は”平和島静雄によく似た少年”の首を締め上げる。苦しそうにもがき、そうして最後に仕方ないと言わんばかりに微笑んだのは”彼”と全く同じであった。
臨也はギリっと、唇を噛み締める。
もう少し辛抱すれば、もしかしたら”彼”と同じになったかもしれないのに。
それでも、あの死に顔は良かった。
ゾクゾクと背を滑る快楽にうっとりとしながら、臨也は次のクローンを作り出す。
カチャカチャと鳴る機材の音。
窓から見える、小さな中庭。白い花が咲き乱れている。
「………早く、会いにきて」
約束した永遠を、早く頂戴と、臨也は少しだけ泣いた。
だって君は僕のもの
(やくそくしたの、わすれないで)
sousaku30 no.12
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確かに恋だった