創作30 | ナノ




「まるで可哀想な鳥だね。だけど、だからこそ美しい」

こちらに聞かせるつもりはなかったのだろう。
新羅は、自分の中だけで終わらせた言葉を零して、頼まれた事を黙々とこなす。

「さぁ、これでいいよ」

臨也の白い肌を隠すような包帯が邪魔だと思ったが、外そうと伸ばした手を新羅に止められる。ゆるく首を振って、傷が残るよ。と言われれば、俺がそれ以上手を伸ばせるハズがなかった。

臨也が好きだ。
声も、顔も、肌も、髪も、瞳も。

全部が好きで、誰にも見せたくないと思った。
高校の頃からそう思っていたが、方法も分からず実行には移せなかった。

けれどある日、ふと気付いたのだ。
臨也を殴って、動けなくして俺の部屋で飼えばいいと。

池袋で臨也の姿を見た瞬間。
具体的に言うならば、嬉しそうに何か考え事をしているコイツがとても可愛いと思った瞬間。その思考に関わっていない俺が、嬉しそうなコイツを視界に入れる周囲の人間が、憎くて、憎くて仕方なくなったのだ。臨也は、可愛い。だから、俺だけが見える場所に置いておかないと盗られてしまう。

いっそ清々しいまでにハッキリした答えに満足しながら、自販機を持ち上げる。
いつものように、名など呼ばない。コイツを知らない奴に、コイツの名前を教えるなんて勿体無い事はもう、出来ない。

ぐったりとした臨也を部屋に連れて帰って、コイツが暮らしやすいように環境を整える。ベッドに縛り付けるのは可哀想だから、身体の正面で手首を縛るだけにした。ペットは拘束しすぎてもいけないのだとトムさんが言っていたからだ。この力の所為で動物を飼う事はついぞした事がなかったが、飼うのが臨也ならば話は別だ。大切に、大切にしよう。臨也を幸せにしよう。臨也が死んだら、俺も死のう。

脇腹から血を流す臨也をずっと見ていたが、白かったシーツが赤く染まっていくのをジッと見ているうちに思った。臨也の血を、シーツに染み込ませるなんて勿体無い、と。唇を近付けて、痛みを与えないように舌を伸ばす。暖かくて、鉄の味がする。美味しいとは思えなかったが、臨也のモノであると思えば零す事は考えられなかった。

目を覚ました臨也は、少し照れたようだったけれど、暫くするとこちらに手を伸ばし、幸せそうにキスを受け入れてくれた。可愛い、と繰り返して何度も口付けているうちに、臨也はぐったりと動かなくなった。シーツはドス黒く染まっていて、ああ、もしかしたら死ぬのかもしれないと焦って新羅を呼んだ。一瞬だけ驚いた顔をした新羅は「…ああ、そういう事」と、一人で納得して臨也の手当てをしてくれた。臨也の肌に触るのは俺だけで良いと思わなくもなかったが、駄々を捏ねて臨也が死ぬ方が嫌だった。また、名前を呼んで髪を撫でて欲しい。俺の腕の中で幸せそうに微笑んで欲しい。そう思って、処置を待った。  

「まるで可哀想な鳥だね。だけど、だからこそ美しい」

新羅は、臨也の事をそう言った。
ベッドで眠る、傷だらけの、俺の鳥。

綺麗で、愛しくて、だから誰にも見せたくない。

新羅はそっと手を伸ばす。臨也にではなく、俺にだった。

「僕はね、わりと理解がある方だと思う。君の考えには共感出来る部分が多いし、それで幸せならば構わないんじゃないかな」

「………ああ」

俺は、新羅の手が臨也に伸びなくて良かったと、それだけを考えていた。
セルティの連れを殺したら、アイツが悲しむ。それはどうしても、避けたかった。


「…………シズちゃん…?」

「臨也!!」

臨也の声に、頬にかかっていた新羅の手を振りほどいてベッドに向かう。
痛みに目をしかめる臨也は、本当に可哀想だ。変わってやりたい、そう思った。

「それじゃあ僕は帰るよ。仲良くね、二人とも」

にこやかに笑った新羅は、臨也を見つめてこう続けた。

「心配しなくても、盗らないよ」

たまにコイツは、わけがわからない事を言う。






きみは何も考えなくていい

(可哀想な鳥はどちらか。
答えは独占欲で睨まれた医者だけが知っている)





sousaku30 no.11





title by 確かに恋だった





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