創作30 | ナノ







「しーずちゃーん、おーきーてー」

間延びした声に、ヤギの毛を集めて埋もれる幸せから切り離される。
ようやく毛を刈り揃えて、もふもふ出来る所だったので些か不満だが、起きてしまえばどうという事はない。所詮は夢。あの素晴らしい手触りもただの夢でしかなくて…

「…シズちゃん?なんで俺の腰撫でるわけ?」

「いや、夢の余韻を…」

「ほーぉー?夢で良い女とセックスしてるのを邪魔されたからその代わりってわけ?」

不機嫌になった頬をつつきたい衝動を我慢しながら「いや、ヤギだ」と、静雄は断言する。

「ヤギぃ?!」

大変不服そうな声が響くが、先ほどまでのピリピリとした空気は無くなった。頬をつつくチャンスが無くなったのは残念だったが、せっかくの日曜日に恋人を怒らせても良い事はない。静雄は「ヤギより手触りが良い」と、フォローにも褒め言葉にもなっていない事を呟きながら身を起こした。干したばかりのシーツは心地良いが、少しだけ不満もある。

「ほら、シズちゃん。今日はこんなに晴れてるんだから洗濯しちゃおう。シャツも全部脱いでほら」

促されるままにシャツを脱いで、当たり前の如く静雄は抱き込んだままだった細腰を引き寄せてキスをする。朝の習慣となっている触れるだけのキスを幾度となく。頬から唇に、ついばむように繰り返せば、くすぐったそうに細まる目尻にも。形の良い耳朶にも触れたくてキスをすれば、ビクリと抱き込んだ身体が揺れる。クチュリ、と音を立てて舌を滑り込ませれば、怒ったように睨まれる。それが逆効果だと、おそらく臨也はわかっていない。例えそれが臨也の演技だとしても、まるごと騙されて構わないと静雄は思っていた。それくらい、こうして静雄の腕の中で身を震わせる臨也は可愛い。可愛すぎた。

「臨也、口開けろ」

「んん…?んっ…あ……」

惚けていた臨也が、言われるがままに唇を開けば散々耳をねぶっていた静雄の舌が、今度は口内へと滑り込んでくる。元々静雄は色恋事にはさっぱりであったが、回数を重ねれば互いの好みの場所は理解出来る。ふるりと背筋を震わせた臨也が、主導権を握ろうと舌を伸ばすがあっさりと絡めとられ、甘く噛まれた。

「ふぁ…っ、ん……」

飲み込みきれなかった唾液が臨也の喉元から、エプロンの肩部分へと流れていく。静雄はそれすらも惜しいとばかりに舌を這わせ、臨也は必死に声を殺すが、熱の篭った吐息が彼の官能を知らせていた。

「シズちゃ…… やんの?」

「嫌か?」

「いや…じゃないけど…朝だし…せんたく……」

荒くなった息を整えながら話す臨也が愛らしく、静雄は額に、瞼に、頬に、唇へとキスを降らせる。

「…っ、もー!シズちゃん!!」

「ん?」

首を傾げた静雄に、臨也はフイと横を向きながら小さく呟く。

「……………ここまでしたんだから、責任とって?」

「りょーかい」

二人、笑いながらベッドに沈んで
かくして洗いたてのシーツは、二人の香りに染まっていく。

静雄の不満を、解消するように。






ランドリーロマンス






title by 月にユダ





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