novel | ナノ


零れる吐息の一つでさえ奪い取るように
ただただ強く、口付けた。

「…っ、んっ、?!」

あはは、シズちゃんったら昔と同じ顔してる。君が慌てると、もっとしてやりたくなるんだよね。その顔、ほんとタチが悪い。

歯列をなぞるように舌を這わせれば、驚いた事にシズちゃんの舌が俺のそれに絡まってきた。へぇ、シズちゃんキスの仕方なんて知ってるの?きっと唇が自由なら、俺の口はそう言っていたに違いない。ただ、今はキスするのが気持ち良くて、それだけに忙しいから言わなかった。代わりに、全ての酸素を奪うキスを。

今なら、俺の心臓は止まるかもしれない。うるさいくらいに存在を主張するそれは、いつしか下敷きにしている相手の心音と重なって、一つにしか聞こえなくなった。




「…ん、…ハァ、」

気が済んで唇を離せば、すぐにシズちゃんのそれが近付いてきた。

俺の唇を啄むようなキスに、思わず笑みが零れる。夜目に慣れて見えたのだろうか、シズちゃんもまた、声無く笑うのが気配で伝わってくる。

触れるだけのキスをされた後、思い切り引き寄せられた。

「わっ、…ちょっと、急に何す…

「その顔」

「は?」

「その顔なら、好きだ」

「…………そう」


耳元で響く声とか、髪を撫でる優しい手だとか、離れそうにない腕だとか。全ては君が、君でないからこそ得られたもの。

そう思えば、心臓は冷静を取り戻す。
ああ俺は、分かっていたはずなのに、分かっていなかった。それが今は、ただ悔しい。

欲しかったのは、あの彼だ。
無いもの強請りは、思考を愚かにする。

この彼でもいいだろうと、抱きしめられた時に過ぎった思考。今もまた、甘く俺を誘惑する。

「ったく。起きて早々ノミ蟲くせぇし」

………


「あ?何ボーっとしてんだ?」

「……抱きついてきてんのは誰だよ」

「テメェじゃねぇの?」

「うるさい、しね」

「…なぁ」

「…うるさい」

「なぁ、臨也。なんで泣いてんだよ?」

「…っ、るさい!」


もうこれ以上、聞きたくなかった。

だからもう一度キスをしようとすれば、それより先にキスされて。

ああコイツは俺を殺す気なのかとぼんやり思った。


それでもいいと思うくらい
心臓が痛くて、痛くて。

零れる涙の止め方すら、忘れてしまった。



涙を拭うように触れる唇は、嫌になるくらい優しかった。






僕を殺す方法ひとつ/end



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