風呂あがりに肩からタオルをかけて、タンクトップにパンツ一丁な男が俺の部屋をウロウロしている。それもそのはず、彼は俺の恋人なのだ。
人に断りもなく冷蔵庫のビールを飲み干して、ぷはぁ!なんて嬉しそうにしてるおっさんが、俺の…恋人。
なんだか居た堪れなくなって、そっと瞼を閉じた。あれ、俺もしかして泣いてる…?いや、前からシズちゃんなんてあんなもんだろ。なんだよ、どれだけ美化してたんだよ俺の脳内?!
ため息はどうにか飲み込んで、腰に手を当ててビール中な恋人に声をかける。
「シズちゃんさぁ…」
「あ?」
ぽたり、と前髪から雫が垂れてフローリングを濡らす。その行方を思わず見届けてしまっていたら、シズちゃんも同じように床をみていた。
……なんかこれ、濡れた犬が、しょんぼりしてるみたい。
人間には思い込みというものが案外大事で。 シズちゃんが犬っぽい。そう思うと同時に効果が現れた。
さっきまでおっさん予備軍…もしくは正真正銘なおっさんに見えたシズちゃんが、今は雨に濡れた大型犬に見えてくる。なにそれ、可愛い。
「…シズちゃんさぁ。髪全然乾いてないし、ドライヤーかけなよ。ただでさえ君ムチャな脱色して髪パサパサなんだからハゲるよ」
「………」
うん、その顔見ただけで言いたい事が分かったよね。
「………めんどくさい?」
「…………」
こくり、と頷かれて、もうダメだと思った。
「はぁ…仕方ないね。こっち来てシズちゃん」
可愛いと思った、俺の負け。 ドライヤーを手に取ると、シズちゃんがちょっと嬉しそうに近寄ってくる。だめだ、こいつまだ可愛い。
でも、甘やかした後は、思う存分甘やかしてもらうから。
覚悟しててね、シズちゃん?
|