俺の名前は折原臨也。 見た通り、大体の事柄には恵まれている自覚はあるけど(あれ?なんか今ちょっと引いた?)どうにもならない事もある。
「…はぁっ…身体、おも……」
因みに体重的な意味ではない。 この背中にへばりついて、ケタケタ笑う気味の悪い"何か"のせいだ。
「だ、か、ら…いい加減に、離れろ!!」
はたからみると、一人叫ぶ怪しい人間になっているのは自覚済みだ。これが原因で、俺には友達がいない。え…?理由は別の所にあるんじゃないかって?あはは、やだなぁ。何で知ってるのさ。
「何暴れてんだ、ノミ蟲」
そう、この男。 ふてぶてしい態度でニヤリと笑うコイツが、俺を孤立させる原因なんだ。 勝手に近付いてきていつのまにか側にいる。コイツがいれば、あとはまぁいいやと思ってしまうので、俺は友達を作る気になれないでいる。
「こいつが、離れないんだよ!」
「………ほら、どいたぞ」
「……………」
デコピン一発で追い払いやがった…。 俺の、今までの苦労って…。
「じゃあ、俺帰るわ。あんま道の真ん中で跳ねてるんじゃねぇぞ」
「跳ねてないよ!…でも……その、ありがと」
「………おう」
ただこれだけの会話で、世界がほんの少し明るくなった気がする。 おかしいね、暗闇ばかり歩いてきた訳でもないのに。
ああ、そういえば俺ーーどこに行くつもりだったのだろう。
***
生まれつき、見えてしまうものがあった。 幼い頃は当たり前、年を重ねるていってようやく、周囲の異端を見る目に、気付かされた。
俺は「あってはならないモノ」を見ているのだと。
嫌な思いもたくさんしてきた。 けれど、どうしても…目の前の存在を嫌いになる事など出来はしなくて。
「やぁ、静雄くん。いま、何もない所で喋ってたけど、例の折原くん?」
「ああ」
思えば、俺をおかしな目で見ないのは、家族を除くと、コイツくらいかも知れない。
「気の毒だね。車に跳ねられた事も分からず、ただ留まり続けているだなんて」
新羅の言葉には、余計な感情は含まれていない。 ただ、思った事を過不足なく言葉にする。それだけだ。
「ああ…そうだな」
それ以上、必要な言葉なんてどこにもなかった。
例えば、初めて会った時と比べると、今のアイツは随分とガキくさく笑うだとか、そんな事は俺だけが知っていればいいと思うから。
「…まぁ、僕は恋には寛容なんだ。人とは違う幸せでも、君が掴めたらいいと思うよ」
「……ああ。ーーはぁ?!」
「あれ?無自覚かい?やだなぁ、もしかして初恋かい?」
「…………………」
「ごめんなさい。調子に乗ってほんっとごめんなさい」
拳を握ると新羅は黙った。はじめからおかしな事言わなきゃいいのにな。
「そんなんじゃ、ねぇ…」
「…うん、そうだね」
いつだって、俺が出来る事はとても少ない。 中途半端な力があっても、それは決して助ける力にはならないのだから。
「それでも俺は、君と彼が幸せになればいいと思うんだよ。おかしいかい?」
「……いや」
幸せに、なればいいな。 アイツも、俺も。
他人事みたいだと、口に出してから気が付いた。
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