菜緒と付き合うようになってから毎晩のように見る夢がある。
最初は決まってガキの頃の記憶の再生だった。
初めて好きになった人。傷つけちまったあの人。
もう誰も好きにならないと、なってはいけないんだと、子供ながらに思ったあの頃の記憶。
そして現在の俺。
夢の中の俺は菜緒を恐れている。
壊しちまうのが怖くて。
そして菜緒は俺を置いてどこかへ行く。
俺から離れていく。
俺の声は、届かない。
「………」
枕が自分の涙で濡れていて目覚めはいつも最悪。
「なんで静雄はいつも夜泣いてるの?」
そんなことを聞かれたのは菜緒と一緒に住み始めて1ヶ月くらい経った頃だった。
「さぁ?あくびだろ」
これ以上突っ込まれるのを避けようとし、強引にごまかした。
そんな俺の雰囲気を感じ取ったのか、菜緒はそれ以上何も聞いてこなかった。
これはガキの頃から何も成長してねぇ俺の問題。
手前のことも信じられてねぇのに、他人を信じるなんて至難の技だった。
今日も同じ夢を見る。
暗闇の中で背中が遠ざかっていく。
ー傷つけるのが怖いんだー
ー俺から離れたほうがあいつのためだー
ー…行かないでくれー
「行くな…!菜緒…!」
叫び声は届かない。
はずだった。
手にわずかな温もりが触れる。
菜緒…?
俺はそれを頼りに、意識を無理やり現実世界へ引っ張った。
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「また泣いてる」
私の彼氏さんはなんで夜になるとこうも泣き虫になっちゃうのかね。
今日は一段とうなされている気がする。
もう肌寒い時期なのに、額には汗が浮かんでいた。
「起こしてあげたほうがいいよね…」
静雄の肩を叩こうとした瞬間だった、
「菜緒…っ」
苦しそうにつぶやかれる私の名前。
静雄の手が何かを探すように空を切っている。
私は思わずその手を握った。
「静雄…っわ!」
突然静雄は起き上がり、抱きついてきた。
「静雄…?」
「っは……菜緒……」
「ん?」
苦しそうに肩で息をしながら、まるで私の存在を確認するかのような手つきで私の髪を梳いている静雄。
その背中をそっとなでる。
涙で私の肩が濡れるのがわかった。
「どこにも行かないでくれ」
「え…」
「俺を一人にしないでくれ…っ」
その瞬間、私は全てを悟った。
そんなことか。
「どこにも行かないよ」
「菜緒…」
「ずっとそばにいる」
「ん…」
「約束」
一生かけて果たしていくから、安心してね。