「お前、名前なんて言ったっけ。」
「中西菜緒だよ」
「こっち来て日浅かったりするのか。」

自己紹介、聞いてなかったんだな。
なんて思いつつも、数十分前までは緊張で周りの音という音が遮断されていた私が言えることではないか、と反省する。

「3月に引っ越して来たばっかり」
「そうか」

整っている顔立ちから吐き出される、とても穏やかな声。
その顔が複雑な表情で埋められる。
どうしたの、と聞こうとしたところで教室の扉が開かれた。

「園芸委員担当教師の吉野です。早速だけど、来週までにみなさんにやって来て欲しいことがあります。」


先生の話を要約すると、自分たちのクラスが割り当てられている花壇のスペースに植える花を、来週までに各自用意してくること。費用は学校から出る。ということだった。

各所から不満そうな声が上がる。
中学の時は、花を自分で用意する、なんてことはしなかったので、私もこればっかりは面倒だなと思ってしまった。

「俺、花とか全くわかんねぇんだけど」

そう言って深刻そうな顔で、日時が書かれた黒板を見つめる平和島くん。
その声色には、めんどくさそうな様子とか、不満げな様子は無く、純粋に困っているようだった。
周りの反応と平和島くんとのギャップに驚く。

「今度の週末、一緒に選びに行く?」
「は?」
「私いい花屋さんとか知ってるから、連れて行こうか?」

戸惑うようにカラメル色の瞳が揺れる。
髪の色とも合間って…

なんだか、プリンみたい。


「俺とお前、2人でか?」

俺、お前、と、手で指しながら問いかけられる。

「そう。」

平和島くんは、少し思案した後、
「お前さえよければ、俺はすげー助かる。」
と言った。

考えてみると、

「私男子と2人きりでどこか行くの初めてかも。」
「それわざわざ今言うか?」
「いや、今気づいたーみたいな?」
「余計なこと言うなよ」
目の前で、でこぴんの指を作られる。
でこぴんされる、と思ったのもつかの間、やべ、という言葉とともに、平和島くんは手を下ろした。

微妙な空気になってしまった。後悔。

先に教室から出て行こうとする平和島くんの後ろ姿からのぞく耳が、窓の外で鮮やかに咲いている桜の花びらと重なって見えた。

そんな微妙な空気が春の穏やかな風にのって、なんだかくすぐったかった。


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