21ー1
菜緒を送り迎えするようになって一週間。今の所特に事件もなく、平穏な毎日を送っていた。
「やっぱりなんだか申し訳ないな…」
隣でそうつぶやく菜緒。
彼女の肩はいつもより一層小さく見えた。
そのセリフもこの一週間で何回聞いただろう。
「だからそれは俺のセリフだ」
「だって…毎日送り迎えさせちゃってさ…」
菜緒は、もし自分が俺を狙う奴に襲われても俺を責めたりせず「私の不注意だ」なんて自分を責めちまうようなやつだ。
まだ出会って数ヶ月だが、そのぐらいは容易に想像できる。
"襲われたら"なんて、自分で考えておきながら背中に嫌な汗が流れた。
「心配すんな」
それをかき消すように菜緒の頭を乱暴に撫でた。
「じゃあここで。ありがとうね」
そう言って菜緒は立ち止まった。
俺はなぜか返事をすることができなかった。
ここはもう菜緒が住むアパートの目の前。
さっき想像してしまったことのせいだろうか、少し嫌な予感がし、俺は中へ入っていこうとする菜緒を呼び止めた。
「部屋の前まで」
「へ?」
「部屋の前まで送る」
ぽかん、としている菜緒の背中を押す。
「早く」
俺に促されるまま菜緒は歩いて行き、部屋の前まで来た。
「部屋までなんてよかったのに」
横を見ると目があった。
「でもこれじゃあ誰も私を捕まえられないね」
いたずらっぽく言う彼女。
「じゃ、本当にありがとう」
そう言って鍵を開け、部屋の中へと入っていく。
扉が彼女を少しずつ隠していく。
気づくと扉の隙間に手を入れていた。
「わっ!どうしたの!?」
「あ…えっと…」
何してるんだ俺は。
「ちゃんと……戸締りしろよ」
「ぷっ…!お父さんみたい。わかってるよ、じゃあまた明日ね」
「おう」
目の前で扉がしまる。
俺はため息をついて、アパートを後にした。