(燐と)

「あの・・・奥村君」
「スキヤキ!?」

目の前でクラスメイトが「違うけど・・・」と震えながら立っていた。
またホームルームで寝ちまったらしい。しかも俺らしかいない。
なんで誰も起こさねーんだよ、なんて思いだなら制服の袖でよだれを拭く。

「あの、現国のノート、提出今日までなの」
「あ?なんだそれ」
「先週先生が言ってたよ?私、提出するように言われてて、あと奥村君だけだから・・・」

この一週間は雪男のスパルタ講義とか塾のテストがあったせいですっかり忘れてた。
授業も半分くらい寝てるからノートはほぼ白い。志摩に写させてもらえばよかったけど、今日までならもう遅い。
真っ白に近いノートでも、まぁ出さないよりはいいだろう。

「悪いなー名字」
「えっ」
「えっ?」

ノートを渡したら明らかに驚く名字につられて俺まで声が出る。
名字はあわてて両手を振ってなんでもないとか言ってごまかそうとしていたが、なんだよって問い詰めるとあっけなく白状した。

「奥村君、私の名前知ってたんだって思って・・・ほら、私地味だし、一回もしゃべったことないでしょ?」

たぶん自虐的っていうんだろう。そんな感じの笑い方をした名字は前髪を弄って顔を隠そうとしていた。変な奴。

「名前はクラス一緒ならふつー覚えるだろ。それに名字は別に地味じゃねーよ。美人じゃん」

目もでかいし睫毛も長い。前髪で変に隠してるだけだ。
身体だってどこもかしこも柔らかそうでいい匂いもする。
そういってやると名字は見る見るうちに赤くなって、無言でまだ前髪を弄り続けていた。
まぁ、俺だけ知ってればいっか。

20120421 天然ジゴロ!