雨が降る前に目を閉じてしまえばいい。 連作


(志摩くんと)

「なまえさーーーーん廉造ただいま戻りました!!」
「はいはいおかえんなさい」
「あーんお帰りのチューとかないんですか〜?」
「はよう坊のところにおむつ持って行ってあげてください」

普段は優しいなまえさんやけど、坊のところ来た時はほんのちょっぴり機嫌が悪うなる癖は何年たっても治らへん。
大きい坊と小さい坊と紛らわしいけど、僕にとっては両方坊やしなぁと考えながら健やかに眠る次期座主様の部屋に紙おむつとミルクを備える。

「なまえさん。抱きしめてもええです?」
「・・・どうぞ」

勝手に腹を立ててる自覚があるなまえさんは、こういう時素直に言うこと聞いてくれるから僕的には役得ですわ。
それにまぁ、なんで機嫌が悪いかなんてわかっている。
なまえさんと坊は昔付き合ってた。そりゃあもうはたから見ればそれは仲睦まじいおしどり夫婦。未来の明陀は安泰だなんて言われたりもしていた。
けど別れはった。
不浄王の一件もあり、祓魔と明陀の関係を強めるために、坊は好いてもない女性と子を成しはった。
見ていて辛かった。好きな女の子と、大切な人が泣いて暮らすのを見つめるのは思ったよりずっとつらかった。

「なまえさん」
「なぁに?」
「僕は、坊と浮気しても怒りませんよ」

瞬間、右頬に鋭い痛み。
受け身も取れずにひっくり返ると、顔を真っ赤に染めて般若の表情で僕を見下ろすなまえさんと視線が合った。

「こっ、の、どあほう!!ピンク頭!!廉造のアホ!!死ね!!」

そのまま力任せに襖を開く。スパン!!と音を立て地団駄のような足音を鳴らして部屋を出て行ってしまったなまえさん。
おかげで小さい坊が起きてしまい、赤子の泣き声が響き渡った。

「せやかて、自分も坊のこと好きやん・・・」

残された僕は、なまえさんを追いかけることが出来なかった。
彼女を追うには、自分は相応しくない気がしてならないいのだから。

20120412 男の友情の身勝手さについて