炎上する都市に一人立たされて、まさしく世界の終末を演出する舞台に薄く笑いを浮かべるしかなかった。

レイシフトの最中に何かあったのは明白だが、その何かを知る術を自分は持たない。
昔からそうだ。自分は考える頭が足りないし、往々にしてタイミングが悪かった。
だから常々自らの意思でなく「家」の指示にしたがっていたのだ。
今回も「家」と言う巨大な組織に右へ左と動かされ、行き着いた先が人理継続保障機関と呼ばれるカルデアだった話である。
魔術の名門アニムスフィア家が提唱した「2016年の人類滅亡を回避」の為に集められたマスター候補達。名声欲しさに我こそはと名乗りを上げた魔術師たちは、殆ど軍属にも近いような扱いで収容されていった。
同じく「家」からマスター候補として輩出された禧緒は、「家」の本来の目的が表立ったものそのものなのか知らないままカルデアに送られ、そして特異点Fへのレイシフトによって冒頭に至る。

周囲に人影はなく気配もない。だが満ちた魔力に交じる違和感に人間以外のものが点在しているがよくよくわかった。
さて、どうしたものかと周囲を見回す。
他にもレイシフトを行ったマスター候補たちが居るはずだが、やはり人間の気配はない。
こちらからの通信も繋がらないのでカルデア側から見つけてもらうしか帰還の術はないだろう。ひとまず装備を確認して、覚悟を決めて進みだす。
餞別代わりに渡された礼装は無事だ。これさえあればある程度生き抜けるだろう。
防具となる支給品の魔術礼装であるカルデアの制服は、とてつもなく高価というものでもないが性能のバランスは大量生産にしては素晴らしい。
そしてもう一つは武器となる魔術礼装、かつてセイレーンが作り上げたとされる杖だ。流石脈々と「家」に継がれてきたものである。青白く輝く宝珠に込められた魔力があれば、これほど心強い武器はない。
本来ならば当主以外は扱えぬ。門外不出である礼装の一つを自分に渡したということは、余程今回の事を上手く修めることを期待されてのことだろう。

だが実際は燃え尽きそうな瓦礫の都市に降り立っただけだ。
召喚システムも使えない。特異点と化したこの都市と時代。現行の時空間から切り離され閉ざされた街。大いなる時間の歪みの中に押し込められた魔力量から察するに、聖杯戦争が勃発しているのは確実だ。ともすれば英霊が存在するのも確実であるので、進む度に寿命が縮むというより生存値が下がる思いだった。
自分がここで死ねば礼装は「家」に戻ることはなく、名声もなく何の成果も上げられないまま家系図から名が消えるかもしれない。
そもそも、特異点を修正する事ができなければ人類そのものが滅ぶのだった。
さしあたり問題は山積みだが、解決できねばそのうち雪崩となってすべて塵と化す。手を出すにせよ放置するにせよ、あまり明るい結果にならないだろう。

揺らめく炎からにじむように現れた影。
反応はサーヴァントに劣るが非常に似ている。お互いを認識した瞬間に襲い掛かってくる影を問答無用で敵とみなし、魔術礼装・北海の歌姫を振り上げ先手を取った。
見た目は影だがしっかりとした物質らしい。杖の先端の宝珠で殴れば手応えが伝わる。
数度殴打を続ければ影は存外容易く霧散した。単純な物理ダメージではなく宝珠による貫通ダメージのおかげだろう。
気配はない。つまりは勝利だ。ほっと息を吐き胸をなでおろす。
初戦の割にはずいぶんいい線を行っただろう。ひとまずは生き延び、サーヴァント未満とはいえ聖杯による生物に勝ち越したのだから。

20160506 終わりまであと三秒