疑似地球環境モデル・カルデアス。
惑星に魂があると定義し、その魂を複写して作った極小の地球。星の状態を過去・未来に設定することができ、地球の様々な時代を再現することが可能だが「シバ」を用いらなければ観測ができない地球の模型である。
近未来観測レンズ・シバを通してみるそれは、未だ煌々と赤く輝き、青く貴い文明の光を飲み込んだまま。
それは人類史の終息を意味し、それは全人類の滅亡を意味する。
オルガマリーが否定し、回避しようとした事態。

「オルガマリー…」

彼女が愛した宝物。そして彼女を殺した凶器であり、彼女を飲み込んだ墓標。
霊子分解されたオルガマリーの意識・魂は存在しない。肉体そのものもレフによって葬り去られた。
彼女は何も残せず居なくなった。
ただ生きていたという記憶だけを残して消えてしまった。

「オルガマリーっ…!!」

救えなかった。
彼女の最後の一瞬の表情が心に刻みつけられている。
守れなかった。
彼女の願い。夢。信念。想い。
重たい体を引きずって、禧緒は憎くて愛しいカルデアスに寄り添う。

「あなたはそこにいる…?」

答えが無いのを知りながら、禧緒はそう聞かずにはいられなかった。
燃え盛る赤色の色を灯したままのカルデアスに身を預け、禧緒は静かに目を閉じた。


20160605 やさしさでは癒えぬからだ