全員で情報のすり合わせをするものの、やはり大した収穫はなく、唯一可能性があったのが大社よりも大きく外観を損ねまくってるユメタウン稲荷なる集合住宅。と、それに連なる観光マップの発行元”いなり光明財団”である。 明らかと言えば明らかだし、言いがかりと言えば言いがかりとも言えるレベルだ。 そこへ宝先輩が豪奢できらびやかな衣装を纏った狐の文楽人形を共に到着し、憑依召喚のための祝詞を上げた。 人形に降ろされたのはいつも出雲ちゃんが従えていた二匹のうちの一匹ミケである。 そして語られるのは、本人不在の因果と因縁。 出雲ちゃんの、過去だった。 偶然の不運か、策略か。母と娘たちに襲いかかった災厄、善意の皮をかぶった悪意。 重苦しい空気を破るように、しえみちゃんが声を震わせた。 「急ごう」 みんなすぐさまそれに応える。私もまた、腹の底から燃え上がるような怒りを抱えたまま頷く。 出雲ちゃん。努力家で、厳しいことも言うけど優しくて、でも本当は寂しがりやで。可愛いものが好きなのに、いろんなものを我慢して、必死に強くなるためだけに生きる人。そんな彼女にしたのは奴らなのだ。 誰にも頼れない。誰にも頼らない。 そうやって、一人で戦うこと、どれだけ傷ついても大切なものを守ると決めてしまったあの子にしたのが奴らなのだ。 出雲ちゃんの大切なものを奪って、また傷つけようとするのが奴らなのだ。 「ぜったい、ゆるさない」 こぼれ落ちた声は低く、自覚できるほどに暗い。 出雲ちゃんは私が無茶をするのを許してくれた。出雲ちゃんは、私と同じで命を賭けて成し遂げたいことがあったのだ。 それを、奴らが邪魔をする。 なにが光の王だ。王の一角だ。 そんなものは知らない。 私の友達を傷つける、敵だ。 *** ユメタウン稲荷への入り口は地下だ。それを知るミケの案内で人の流れに紛れて進む。 誰も彼もが笑顔で店や屋台の食べ物を貪る。 ミケの言うように、怒りも悲しみも、憎しみも苦しみもない無邪気な子供の表情で頬張っている。 『この土地ののものを一口でも飲み食いすると皆ああなる。この横丁は奴らの縄張りだ。気をつけろ。喰えば喰うほど虜になるからな』 「え…!?」 その言葉に全員が燐を見る。ひとりにこにこ、無邪気な顔で出店で買った菓子を食べているのだから。 「キャーーーーー!?燐!!吐いて!!吐いて!!!」 「吐けゴルァ!!」 「燐もう食べちゃダメッ!!」 しえみちゃんが急いで紙袋を取り上げ勝呂くんが抑えたすきに胃のあたりに掌底を叩きつけて路地の隅に吐かせる。げぇげぇと呻く燐の背を撫でていれば、そこへ三輪くんが「蕎麦…」と震え声で呟く。 そうだ、私以外全員すでに食べてしまっているのだ。 『安心しろ。お前たちは薬草系の魔除けが効いている』 「魔除け?そんなもの施した覚えは…」 「…もしかしてしえみちゃんのサンドイッチ?」 無邪気に無垢に惨劇を神回避をしてみせたしえみちゃんの幸運にうずくまる燐以外の全員でその姿をしっかり拝んでおく。 事前情報がなければ確実に全滅してしまう可能性が高く、回避は困難だろう。今回は完全にしえみちゃんの運に救われた形だ。 故に、ここからは何重にも警戒レベルを上げなければならなかった。 神さま不在の庭 20180430 tittle by 不在証明 |