▼「ひゃー!?マジで全部食いやがった!お前の胃袋は宇宙か?」

「茶」

「あ、はい」


空っぽになった重箱を見て、塑琉奈がぽへーっと声を上げる。その後、ラクサスから差し出されたコップに塑琉奈は、当たり前の動作でお茶を注いでやる。

落ち着いたのか、ゆっくりとお茶を飲む傍ら、ふと気になってラクサスのお腹を触ってみた


「あ!流石に膨らんでるか」

「当たり前だ、飯二つも食ったんだからよ」

「何ヵ月ですかーー???いつ出産ですかーーー???」

「オイコラ」


ぷにぷにと、膨らんでるお腹を楽しそうにつつきながら、笑ってる塑琉奈。 ラクサスはそれに「妊婦じゃねぇ」っと彼女の頭にチョップをかました


▼「つか、なんでだし巻きねぇんだ?」


弁当なら入れるだろ、っと少ししかめっ面で聞いてきたラクサスに、塑琉奈はギクッと肩を揺らした。


「みみ、ミラにね、だし巻きだけ全部食べられちゃったのだー、ハッハッハッ!残念!」

「ふざけんな。また作りゃよかっただろ」

「だってめんどくさいんだもんー!」


ラクサスから顔を背け、塑琉奈はプイッと子供みたいに素知らぬフリをしながら彼の体に寄り掛かる。

「重い」とラクサスは呟きながらも、背中から伝わる彼女の体温に懐かしさが込み上げる感覚。

ラクサスはそれを、目をつむり、身に刻ませた


▼「なー」


秘密の場所を後にし、ラクサスと塑琉奈はゆっくりと下り坂を歩いていく。

周りに木々たちが茂る道を、先を行くラクサスの背を見やる


「暫くここら辺にいるのか?」


そして、背中に掛かった塑琉奈の問いかけ。それにラクサスは足を止めることなく「…さあな」っと小さく答えた。


「そっか。」


▼塑琉奈は、そのラクサスの言葉を聞いて、彼にバレないのを良いことに、嬉しそうに笑う


…きっと、ギルドに戻りてぇんだろうなぁ…。ましてや、あんなことがあった後だ。

助けに行き、じっちゃんの背中を見て、皆と力を合わせて…

それはラクサスにとって、とても大切な出来事だったんだと思う。


「(また、お前はその大切さを再確認できたのかな…?)」


そりゃ俺だってそうだ。

あの時の不安定な彼じゃない。今の、もう迷いのない逞しいラクサスの姿を見れるなんて、会えるなんて、とても嬉しいことだったんだから。

そうして、俺はお前や皆に支えられて、力を振り絞って、それが形にしたもらえたから…今こうやって、ラクサスとの日常を送れる。

かけがえのない、奇跡のような事実


▼……また、俺はお前といれるんだ。また会えるんだ、一緒にお話できるんだ、そう思うだけで俺の胸は弾んでる。

あ…なんか、恥ずかしいな。

なに考えてんだよ俺、ラクサスに会えるからって安心なんかしやがって。まるで恋する乙女かようぇっ、うぇっ、

…つーか悔しい。俺をこんな風にさせちまったのがラクサスだなんて。むむ、ムカつく!なんかムカつく!


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