Title/DREAMS Presented by G 「なんじゃこりゃああぁあああ!」 目が覚めると、なぜか自分の布団で寝たはずなのに、押入にいて、叫んだ声は、甲高い聞きなれた少女のそれになっていた。 「…で…?目が覚めたら、万事屋のチャイナ娘と入れ替わっちまってた…と…?」 今日は土方とデート。 寝る前は久しぶりに土方が非番だからと、そんなことに浮き足だっていたはずだってのに…。 起きてみたら一転。 まさか自分が自分でなくなっているだなんて…。 「なにがどうなっちまってるんだか、自分でも分からないんですけど」 今日は久しぶりの逢瀬とばかりに、気合い十分、睡眠だってたっぷりとってあったというのに。 「まさか肝心のチンコ喪失なんてことなるとは…あでっ…」 「そのナリでそういう台詞を口にするんじゃねぇよ…」 神楽と入れ替わってしまった銀時の脳天に空手チョップをお見舞いしながら、土方は煙草をくゆらせため息を吐く。 普段も大概にしておけと思う下品な台詞も、神楽の姿で口にされては、なんとなく自分が犯罪者になってしまったような気がするから、いただけない。 「今日は銀さん気合いいれてたってのに、全然満足させてやれなくてごめんなぁ…いでっ…」 「だから、そういう台詞をそのナリで口にするんじゃないっての」 懲りない銀時の台詞に土方は小さく舌打ちして、煙草を灰皿に押しつけた。 さすがに外出するのもどうかと思って、万事屋のソファに二人並んで座っているのだけど、神楽の姿になってしまった銀時は、土方の隣で正座をして、背中を丸めていて、どうにも久しぶりに恋人同士の甘い時間を満喫するという雰囲気ではなくなってしまっていた。 「で、おまえの体はどうなってるんだ…?」 順当に考えれば、神楽が入れ替わって、銀時になってしまっているというところなんだろうけれど…。 「さっきそっとのぞいてきたら、まだ寝てた」 もし神楽じゃないモノが入っていたらと思うと、怖くて起こせなかったんだと話す銀時に、土方はまぁ確かになと、苦笑混じりに頷いて…。 どうしたものかと頭をかきつつ、神楽の姿をした銀時が入れてきてくれた珈琲に手をのばす。 茶受けが酢昆布なのは、あえてなにも言わないでおくべきか…。 「それにしても、これからどうしたもんかなぁ…」 銀時はぼやいて、土方の膝を枕にごろりと寝転がってみた。 抱き合うにも身長差がありすぎるし、なんせ大事なモノがないのだから、うっかり欲情したところで、まさか土方に抱かれてしまうわけにもいかないしで、せめてこれくらいは許してもらってもいいかと、甘えて膝にすり寄ってみたのだけど…。 外見が神楽のせいか、どうにも土方のあたりもソフトで、膝枕をしてもらうべく寝転がれば、やんわりと頭をなでられて、なんだか釈然としないものは感じつつも、何となくこそばゆい気持ちになった。 なんだか甘えさせてくれる土方が珍しくて、嬉しくて。 (もうちょっとだけ、この姿のままでいいかもとか…そんなこと思っちまうのって、どうなんだろうな…) 本当ならば、すぐにでも自分の体に戻って、土方をぎゅっと抱きしめたいところなのだけど。 「なぁ…」 「ん?」 (…え…?) 呼べば自分の顔をのぞき込んできた土方の瞳と視線が絡む。 しかし、いつも物騒に瞳孔全開の瞳は、いつになく優しい色を秘めていて…。 (人間ってさ、欲情すると瞳孔開くっていうけど…まさか…な…) 自分をみると、うっかり欲を感じて土方の瞳孔が開いているとか…そんな…わけは…。 今は姿は神楽だから…。いつもはこんな瞳をしてるとか…。そんなわけは…。 優しく頭をなでられていると、どうにもそれが気持ちよくて、ほかほかと暖かな伝わってくる体温も相まって、どうにも銀時は眠くなってきてしまった。 (寝て…起きたら、元に戻ってるといいんだけど…) そんなことを思いつつ、瞳を閉じれば、引きずり込まれるように深い眠りに落ちていく。 そして…。 どれくらい時間がたったのか…。 「おい…おいって…いい加減起きろって…重いんだっての」 ゆさゆさと肩を揺すられて瞳を開けば、土方の瞳孔全開の剣呑な瞳をかちあった。 (…え…?) 寝落ちる前にみた柔らかな光を放つそれとは違う、鋭い目に、銀時は起きあがって当たりをきょろきょろと見回して。 一段低くなっていた視界がいつものそれに戻っていた。 「戻った…」 「はー?」 土方はなにを言っているのかと呆れたように首を傾げて、テーブルに並んでいた酒をグビリと飲み干した。 「いきなりぶっ倒れたかと思ったら、なにいってやがるんだか…」 なにが戻っただ。それはこっちの台詞だろ。 悪態をつく土方は、銀時の頬をペシペシとたたくと、煙草を口にして火を灯した。 (…夢…?) もしかして…土方に甘えたいと思っていた自分が、うっかり神楽に入れ替わって、土方に甘える夢でもみていたのだろうか…。 銀時は釈然としないものを感じながらも頭を掻いて、すすめられた酒に口をつける。 夢にしては、触れた手の温もりは感じたし、あまりにその感触はリアルなものだったんだけど…。 (まぁ…いいか…) 考えたところで、あれが現実だったななてこと…説明できないんだから。 しかし…。 (あの目…もう一回みてぇなぁ…) 優しく細められたそれ。神楽のことを何だかんだと面倒みている姿はみかけるけれど、あんな目でみられているとは知らなかった。 (うらやましいとか思っちゃいけねぇんだろうな) 銀時はそんなことを考えて、小さくふと笑みを浮かべた。 恋人が、自分の大事にしている人を、同じように優しく見つめていることが、何となく嬉しくて…照れくさくて…。 銀時は、自分の願望が見せた幻かもしれないそれと知りながら、それでも何となくふわりと優しい気持ちになるのを感じていた。 「…内緒アル…」 隣の部屋で、うっすらと襖を開けた神楽が土方に目配せして、しー…と唇に指をあててそんな台詞を口にしていたことに、銀時は気づかなかった。 なにが内緒なのかは…。 土方と神楽の二人だけの秘密。 ただ、テーブルの隅には、飲みかけの珈琲と酢昆布がおかれていたのだけど。 おしまい |