Title/恋飾り ;R18
Presented by J
 



 男と体の関係を結んで早一ヶ月半。上司が突如連れてきた小汚い餓鬼を思わせるような風貌は、今やすっかりとその姿を隠した。変わりに身を包む黒い自分と同じそれは土方の信用を得るには容易く、そして何かと二人でいた長い時間は警戒心を徐々に徐々に緩和していた。
 元浮浪者のような男の腕は良く、悔しいが人柄だって町人からの受けは真選組一番だ。この男のおかげで掴むことさえ困難な情報が易々と手に入る。戦場だと安心して背中を預けられる。今では土方にとってなくてはならない自分の半身のようなものだった。

『土方君を抱きたいんだけど…』

 そう、言われた時も不思議と嫌悪感なんぞ感じることはなく。多少驚きはしたものの、同性のしかも自分と変わらない体付きの男に言われたというのだから、世間一般に見てそれは当たり前のことだと言えるだろう。

『なぁ…』

 まるで自分に縋るように向けられる視線にも、感じたのは得も言われぬ充実感のみ。

『勝手にしろ…』

 なぜだか拒絶する言葉は脳内の選択肢にはなかった。それどころか、どこか奥底でこの男に触れられたいという気持ちがあったような気がする。それが恋だと気付くより先に体だけが繋がってしまったけれど。そしてまだ、何もいえないままなのだけれど。


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「ぅ…あ、やぁっ」

 グチャグチャ、と卑しく濡れた音にさえ感じてしまうようで。逃れようと耳へと伸ばした手は掴まれ、頭上へと縫い止められる。生理的な涙が満ちた視界にはまばゆい銀色のみが見えた。

「あ、あ…ぁっ…ぎん、あ、ぎんっ…も、やらあぁあ」

 必死になって首を振っても男は逃がしてはくれない。変わりに、漏れる声が誰かに聞かれるのを防ぐように唇が深く混じり合った。呼吸が全て持っていかれて、酸素の回らない脳はゆっくりと理性を剥がしてゆく。心臓の音が痛いくらい体を揺らす。

「ふ、ん、んっ――」

 強いオーガニズムを感じて、ようやく根本を放されたそこから後を追うようにパタパタと白濁が飛び散った。達したままの体を二、三度揺すされて後孔に熱が広がる。男が達したのだ。
 はぁ、と熱い息が吹きかかり男と熱を分け合う。ドサリと覆いかぶさる体は重たいし、質量を失ったといえど抜かれない後ろは違和感だらけで。それでも、どけろとどんなに声を凄めて言った所で男はそこから避けなかった。

「土方君さ、銀さんの努力のかいあって、ようやく後ろでも感じられるようになったよね。」

「…るせぇ」

 今日は特にしつこい。なかなかどかない男の足を蹴ってやると、耳元で話すトーンが落ちた。

「まぁ、土方君がすっげー敏感だったってのもあるけど、さ。安心しちゃった、銀さん。」

 これなら大丈夫だよね。そう、言って、体を離していった男の表情は暗くてよく見えない。一体何を安心したというのだろうか。何が大丈夫なのだろうか。慣れた暗闇の中で、男の唇が小さく歪んだような気がする。

「明後日、幕臣の一部の会合に呼ばれてるだろ。」

 そう言われて、部屋の壁にかけてあるカレンダーを一瞥した。確かにそこには赤ペンで会合の場所と時間が印されていて、調度二日後にも印があった。今回は、近藤が城に向かうため自分一人の参加なのだ。どうせまた厭味をぐちぐちと言われるのがオチだ、と土方は無意識的にため息を吐いた。

「そこでお前は奴等に抱かれる。」

「は、何言って…」

 いきり、突拍子もないことを言い出した男に返す言葉が言葉が止まった。ドン、という音がしたような気がして男との距離が縮まる。動けば唇が触れる距離で話はまだ、続く。

「俺が、どうして偶然近藤に拾われたかまだわからないの?」

 話をする男の唇は空気に触れて震え。絞りだされる声は乾きを見せた。頭の奥隅が鈍痛を訴える。

「万事屋銀ちゃん。頼まれ事はなんでもするのが俺の本当の仕事。んで今回は真選組鬼の副長、土方十四郎を奴らのペットにするための依頼、だよ。」

 そう言って口付けた男の唇からは嘘の味がして、思考を奪って二人、黒に落ちた。