じゅんこ

▽No title




自虐的な笑みを浮かべる彼の顔を見上げてなんだか泣きたくなった。こんな笑いかたをする彼を見たことはない。
「寒いよ」
他に言葉が思い浮かばず、ぼそりと呟くと薄暗い部屋に妙に響いて隅に貯まる闇に溶けていく。布団を剥いで上にのし掛かり、服を脱がそうとする彼の目は長い前髪にすっかり隠されて見えなかった。
「冬だからな」
バカみたいな会話をして彼はパジャマのボタンをはずし終え、冷えきった部屋の空気に肌を晒させる。抵抗をする気もおきず、ただなすがままにベッドに横たわって彼の顔を見つめる。
「なんだよ」
不機嫌そうにそう言って彼は肌を撫で回す。そんな顔、するなよ。いつものようにどこまでも生と向き合って、世界に喧嘩を売るような顔で笑ってくれよ。なんで、そんなに泣きそうで、自分を嘲笑うような顔で笑うんだ。耳元で熱い息が吐かれる。はぁ。
「なぁ」
ただ陸に打ち上げられた魚のようにピクリとも動かず寝転がって彼に愛撫されたまま今度は彼にきちんと伝わるように口を開く。
「なんだよ」
さっきと、同じ台詞だ。瞳にかかった前髪に手を伸ばし、静かに彼の額から払う。
「生きろよ」