09
駅前の広場は時間のためかいつもより少し人が少なかった。
ちょっと早く着いちゃったな。
忍足くんを待たせてはいけないと思ったら20分も前に着いてしまった。
駅前の本屋で時間を潰そうかな。
そう思い本屋に向かおうとする。
「△△さーん!」
名前を呼ばれ振り返るとそこには笑顔で駆け寄ってくる忍足くんがいた。
「忍足くん!」
「△△さん待った?」
「ううん。私も今着いたばかりだよ」
そう答えると彼は安心した顔をして二カっと笑う…この笑顔にきっとたくさんの女の子達が心を奪われたんだろうな。
よく考えてみると、いや考えなくても忍足くんは絶対にモテる。
端正な顔立ちに性格も優しい。
それに医大生で将来はお医者様になるのは間違いない。
今だって本人は気付いていなさそうだけど、周りの女の子がチラチラと見ている。
モテる人は凄いなあと感心してしまう。
そういえば中学・高校の時もモテる人達は違うなあと思ったっけ。
* * * * * * * * * *
2時間半後。
映画館を出た私達は時間も時間だったので夕食を食べている。(ちなみに映画はとても面白かった)
今回は私のおすすめの中華料理のお店が近くにあったのでそこに入ることにした。
「このシュウマイめっちゃ上手い!」
「喜んでもらえて良かった。春巻も美味しいよ。」
忍足くんがとても美味しそうに食べるのでこちらも嬉しくなってしまう。
それにしても…男の人はよく食べるな。
実家にいた時は弟がいたので慣れていたけど。
久々にたくさん食べるのを見るとやはり驚いてしまう。
そんな私の視線に気付いたのか「俺の顔何かついとる?」と訊く忍足くん。
「何でもないよ」と答えると不思議そうな顔をするのでそれについ笑ってしまった。
「あんま笑わんといてや…」
「ごめんね。でも忍足くん見てると実家の弟思い出すなあ」
「弟?△△さん兄弟おるん?」
「うん。今、高2の弟が一人いるよ。毎日部活で忙しいみたいだけど」
「へえーそうなんや。何部なん?」
「テニス部。強豪校だから練習大変なんだよ。」
「テニス部!?俺も中高でテニス部やったんや!ちゅうか△△さん学校どこやったん?」
「知ってるかな?氷帝学園って所なんだけど…。」
私の言葉を聞いた瞬間忍足くんは目を丸くした。
「氷帝って…あの氷帝やろ?……まさか、いやまさかな。」
独り言を言う忍足くん。
どうかしたのだろうか?
「△△さん…忍足侑士って知っとる?」
「侑士くん?知ってるよ、クラスも一緒になったことあるし」
「!」
私の言葉に黙り込む忍足くん。
あれ?そういえば忍足って…
「忍足くんと侑士くんってもしかして…」
「従兄弟なんや」
親戚?と言う私の言葉は忍足くんの言葉に遮られた。
「従兄弟なんだ…従兄弟なの!?」
「おん。(まさか自分の好きな人がよりにもよって侑士の知り合いやったとは…)」
「世間って狭いんだね…。じゃあ他のテニス部の皆も知ってる?亮ちゃ…宍戸くんとか」
「知っとるで、宍戸も跡部や他の奴らとも面識あるし」
懐かしい名前を聞いて思わず顔が綻ぶ。
何だか無性に皆に会いたくなる。
「懐かしいなあー。こっちに来てから向こうの友達に会えてなくて…大阪で知り合いの話出来るなんて思わなかった」
「俺もまさか△△さんが侑士と知り合いやとは思わへんかったわ。」
「「世間って狭いんだね/やなー。」」
同時に同じことを言って思わず笑ってしまう。
忍足くんといる時間はとても楽しい。
彼の話はとても面白いし、何より大学は違えど同じ学部なのでお互いの意見を言い合うことも出来る。
それにまさか共通の知人までいた。
偶然って凄いな。
この時まではそう思ってた。
これは“偶然”だと。
本当は“運命”だったと私が知るのは、もう少し先のお話。
(君に出会ったあの日から全て始まってたんだ)