ぬくもり | ナノ
ぬくもり


泡沫(旧サイトにおける呪われた堕天使)の連載番外編。
全然本編が進んでないので、今後の進行によっては矛盾が生じるかもしれないですがご容赦ください。一応、夢主と玲音が同一人物だと棗が知ったあたりの時間軸のつもりです。
短編では夢主の名前を白石璃音で固定させてもらいます。




緩やかにと意識が浮上する。重たい瞼を時間をかけて押し上げ、枕もとの目覚まし時計をぼんやりと眺めた。
あまりにも、静かだ。起床時間はいつもと変わらないというのに。張り詰めたような静寂に、漏らした息は室内にも拘わらずほんのり白くなった。それだけ部屋が寒いのだろう。
布団から這い出ると一層寒さが身に染みて震える。傍に投げ置いていた厚手のルームウェアを手繰り寄せると、寝間着代わりのトレーナーの上から羽織り、昨晩脱ぎ捨てたスリッパに足を突っ込んだ。
重たい遮光カーテンを開くと、そこは予想通り白一色。――初雪か。


予想はしていた。
今日は日曜日。朝食を食べ終わるや否や、雪にテンションが上がった佐倉や緋蕗に外へと引きずり出され、俺は止まない雪を見て溜息を吐いた。その元凶たちは誰が一番大きな雪だるまを作れるかで盛り上がっている。因みに今井のは、芋虫シェルターに籠っている主人に代わり、メカが作っているあたり抜かりがない。
「……若いな」
「おい、そこのジジイ」

マフラーに顔を埋めて呟くと後ろから呆れたように返された。振り返ると、不機嫌を前面に張り付けたような日向が立っている。
意外だ。こういう和気藹々とした場にはあまり混ざらないイメージなのに。驚きが表情に出ていたのか、眉を寄せた日向に頭を叩かれた。
「いだ、って、え?」
額にあたった温かいものを思わず掴む。カイロ、だよな。俺にくれんの。意外だなと目を瞬かせると、日向は冷え冷えとした視線を寄越してきた。
「風邪引いて任務放棄とかすんなよ、軟弱野郎」
「誰がだよ!!」

軟弱なのはどっちだっつーの。度々入院してるのは知ってんだよ。言うて任務の度に寿命削ってるのはお互い様だけれど。照れ隠しもいい所だと呆れながらカイロをコートのポケットに仕舞う。
今日は日向とコンビを組んでの任務だが、雪が降っていると思うとあまりやる気がしない。雪のせいで足跡とかに気を遣うのも面倒だし、何よりこんな日に仕事するのが億劫だ。
今既に外に出てる時点であまり変わらないとも言うけれど。
「布団に引きこもりたい」
「バカだろ」
なんで外にいるんだと胡乱気な視線に遠い目をするしかない。いやだって、緋蕗には勝てないし。あいつに勝てる奴なんて俺の知る限りいない。

「棗! 白石もここにいたんだね」

足元の雪を踏みつけながら乃木が駆け寄ってくる。アイデンティティとも言えるいつものウサギを抱き抱えているがウサギ寒そうだな。踏み出す度に柔らかい雪が押し固められるのか、小さな音が響く。

「佐倉達が雪合戦しよって、2人はどうする?」
「俺はいい」
「俺も寒いから遠慮しとく」
「そっか」
棗にあげる、と雪兎を差し出しながら尋ねる乃木は可愛いが、棗は要らねえと突き返した。赤毛にやってこいと言うあたり、なんというか。素直じゃないけれど友達思いなことで。緋蕗も喜ぶだろうなとぼんやり思った。
緋蕗に気に入られるとか俺から見たら災難でしかないだろうけれど、せっかくだから2人が上手くいけばいい。乃木が緋蕗泣かすとは思わないし。こう見えて乃木も芯が強いからいい組み合わせだろう。

「流架、こいつ借りるって赤毛に伝えとけ」
それにしても雪に赤毛は目立つなーと、白い息を吐いて曇天を仰いでいると、日向に手を掴まれた。
「は?」
「帰るぞ」
そのまま当然のように歩き出され、思わず倒れそうになったのを反射的にバランスを取って足を動かす。倒れてもこれだけ積もっていたら痛くなさそうだけど。こちらを振り返りもせず歩みを進める日向に情はない。いや知ってたけど。

「なんだよ、突然」
「赤毛に伝言したからいいだろ」
「そういう問題か」
俺の人権とは。まあ、温かい寮に戻れるならいいかと大人しく着いて行くことにした。だって寒いし。引っ張られている逆側の手はコートのポケットに突っ込んでいる。カイロの伝える熱が冷え切った指先に刺さる。
「帰ったら温かいもの飲みたいな」
「……お茶」
「淹れろと」
どんだけ自分勝手なんだこいつ。思わず笑いながら、それも悪くないかと思った。
「乃木が持ってた雪兎可愛かったな」
「ガキかよ」
「いや、俺ら初等部だから」

寒い寒い冬の日も人と過ごせば温かい。
任務の翌朝起きたら、窓枠に雪兎が置いてあったのはまた別の話。


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