はじまり



二人が旅がしたい、と言った。


「なあ!ナマエも一緒に旅に行こうぜ!」


明るい茶髪が特徴の少年が私にそう言いかける。


「ぼくも……ナマエと一緒に旅したい」


赤い帽子を被った少年が、帽子のつばで顔を隠しながら私にそう言った。
二人は私の幼馴染みだ。

私は二人と過ごす時間がなりよりも宝物だった。
二人が旅したいと言った時、寂しさが頭を埋めた。
だから、二人の言葉に___


「うんっ、私も行きたい!」


そう答えたんだ。


二人は旅する理由がちゃんとあるのに私には無かった。

二人がジムに挑戦するから私も挑戦する。
二人があの町にいくから、私も行く。


段々自分が何をしたいのか、その事について悩むことが多くなった。


「___私、なんで旅しているんだろ」


集めたジムバッジは8つ。

別にチャンピオンになりたいわけじゃない。
二人がチャンピオンロードへ行くのを見送った後、ただただ歩く。


いつの間にかニビシティに着いていた。
日は沈み、建物内の光が所々視界に入る。

近くのベンチに座ってそう言葉を零したときだった。


「___お嬢さん、こんな夜遅くに一人は危険ですぞ」


声がしたので顔をあげると、そこには老人が立っていた。
老人は私の隣に腰掛けてきた。


「何か悩み事ですかな?」

「あ、まぁ…」

「この老いぼれに話してみては如何かな?」


老人の言葉に甘えて私は話すことにした。自分が旅している理由がわからない、と。

幼馴染みと離ればなれになりたくないから旅立ったのに、これから何をすればいいのかわからない、と胸の内を吐き出した。


老人は私の言葉に優しく相槌を打ちながら聞いてくれた。



「___では、私の話を聞いてくれませんかな?」



老人は私にそう言って、語り出した。

老人は若い頃、様々な地方を旅したと言う。
その話は、先程まで悩んでいたことをすっかり忘れてしまうほど聞き入っていた。


「すっかり元気になられたようですな」

「え?」

「先程より表情が随分良くなりましたぞ」


老人は私に向かって微笑みながらそう言った。
それに少し照れてしまうが、それでも私の頭の中にはワクワク感が残っていた。


「あ、あの……」

「うん?」

「先程の話を聞いた後に、これを言うのは少し恥ずかしいのですが___私も、貴方のように他の地方を旅してみたいです!」


___これが、一年越しに見つけた私の旅する理由。





2021/08/11


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