光と闇
沢山の観客の声で湧き上がる声を聞きながら、僕は焦っていた。
何に焦っているのかというと……
「我々親子は、暑い実況で中学サッカー界を盛り上げる事に至上の喜びを感じているのでありますッ!!」
「そ、そう……。ご苦労様……」
「父上!後は頼みますッ!!」
現在僕がいるのは、フットボールフロンティアの会場である『フットボールフロンティアスタジアム』の観客席だ。
隣には春奈、その隣にはいつも実況していた人がいる。
……今喋ってる人、お父さんなんだ……。
春奈も同じ事を思っていたようで、驚きの声をあげている。
何故僕が此処にいるのかというと、昨日突然送られてきたメッセージが始まりだ。
明日、フットボールフロンティアの開会式に来ないか、と言われた。そして僕が私服で来ることを想定していたのか、制服で絶対来なさい、とも言われた。……地区予選の試合、全部私服で来たからだろうなー…。
話を戻そう。
何故僕が焦っているのかと言うと、この人は僕が秋葉名戸学園との試合に出ていたのを見ている。
こういう実況者は、選手のデータを知っているのが基本だ。
で、この人は今喋っている人の子供だ。
……つまり、サッカー選手としての僕を知っている可能性が高い。
帰りたい。今すぐ帰りたい……!!
この人にバレたら完全に春奈にもバレる……!
春奈は秋葉名戸学園の試合に出た僕を、双子の兄だと勘違いしている。
お願いだからこっちを見ないでええええ。
僕が内心こんな事を思っている間に、雷門中と帝国学園が入場し終わっていた。
「そして残る最後の一校!招待推薦校として、世宇子中の参加が承諾されています!」
世宇子中、か。
実況の声を聞きながら、どんな選手だろうと思ってスタジアムを見下ろして入場を待っていると、
「ん?」
入場してきたのは、『世宇子』と書かれたプラカードを持った女性だけだった。
春奈のもう片方の隣に座っている実況していた人が、そんな学校のデータはない、と言っていた。
それと同時に実況から欠場とも発表された。……理由にならない理由と共に。
「それは理由になってないよね」
「?どういう事?」
僕の言葉に春奈が首を傾げる。
「今、調整で欠場だって言ったでしょ?……それって、開会式サボって練習してるって事になるじゃん」
「なるほど……」
僕が横目で春奈の方を見てそう答えると、春奈の隣に座っている人がメガネをあげながらこちらを見て納得の言葉を口にした。
「所で春奈。次は何処と当たるの?」
「まだ分からないわ。あ、見に来るのね!分かったら連絡するわ!」
「暇だったら来るってだけだよ」
「名前は休日いつも暇でしょ」
「勝手に人の事を暇人認定しないでよ」
ジト目で春奈を見て席を立つ。
「帰るの?」
「うん。なんで?」
「いや、開会式はこれからなのに……」
僕は今すぐにも帰りたいのだ。
春奈の隣に座っている人にバレないうちに!!
「帰るったら帰る!じゃあね〜」
「え、ええ……」
春奈にそう言って、僕は会場を後にした。
2021/02/20
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