”帝国学園来たる サッカー部員大募集!”

そう書かれた看板を抱え、学校中を走り回る1人の少年がいた。そして、その少年を見つめるものが1人。


「……あれ、この学校サッカー部あったんだ」


看板を手に駆け回る少年を見て口を開いたのは、ベージュ色で手入れの入った髪を靡かせた少年。……いや、少女だろうか?

学校指定のジャージを着ており、性別を一番に判別できる制服を着用していないため、男なのか女なのかわからない。

所謂ショートヘアと呼ばれる髪型で、かつその容姿は中性的と呼ばれるものである。そのため、余計に性格を判別できない。


「あ、君! サッカー部に入らないか?」


少年『円堂 守』は自分を見ていたその人物と目が合った。円堂はその人物がサッカーに興味があるのかと思い、声をかけた。

その人物は円堂を上から下へと見定めて、そして彼の持つ看板に目を移した。そして、円堂を金色のような瞳でじーっと見つめた。


「サッ、カーか。……悪いね」


その人物は円堂の誘いを断った。
断られた円堂は「そっかー」と残念そうに呟くと、再び学校中を走り回りに向かった。

なぜ円堂がこんなにも忙しなく走り回っているのか。まあ彼が持っている看板の内容そのままなのだが、帝国学園との試合のためである。どうやら部員の人数が足りないようで、勧誘を行っているようだ。


「帝国学園……たしか、ここ40年間無敗の学校なんだっけ? ”こっち”のFFに出たことないから、詳しく知らないんだよね」


少し離れた場所で立ち止まり、その人物は先程円堂がいた場所を振り返った。残念ながらその人物が振り返った場所に円堂はもういなかったが、少し先で後ろ姿を発見。先程と変わらず看板を抱えて走り回っている。


「いつだって言ってたっけ。一週間後だったっけ? ……見るだけ見に行ってみるか」


円堂を見つめながら、少女……『苗字 名前』は微笑みながら校舎へ入っていった。


「なんかあいつ、不思議な奴だったなー」


別の場所へ移動する中、円堂は先程勧誘した人物を思い浮かべる。整った容姿をしていたからなのか、どこか落ち着いた様子だったからなのか、真意は本人にも分からないが、円堂は先程の人物について思い返していた。


「……うん。見るだけなら、大丈夫だ」


そう呟いた少女の声は誰にも拾われることなく、少し騒がしい放課後の廊下に消えていった。


この出会いが彼女の止まっていた時間を動かすきっかけとなることを本人はまだ知らない。
そして、彼女に降りかかる運命にも。





2020/12/26

加筆修正 2022/05/03


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